コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.36 )
- 日時: 2013/03/31 22:48
- 名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)
*「いつも、そうやって笑うのだな」
彼の青い瞳を見た。
言葉では言い表せない感情が渦巻いているのが見え
た。
「そうやって、悲しみや苦しみを押し隠して・・・笑
う」
また、見抜かれた。
視線を受け止めきれずに、うつむく。
初めてカエデは恐怖を覚えた。
どんなに隠そうとしても、ヒタギはすべてを見透か
す。
つまり、ヒタギの前では、自分の醜い部分とかも、隠
せないのだ。
「・・・おまえがそうやって笑うのを見ると、おれは
悲しくなる」
「ご・・・めんなさい」
「謝るな。
おれは、おまえを守ると心に決めている。
もうそのような顔は、させない」
その力強い言葉をカエデは、嬉しいと思うより悲しい
と思った。
ヒタギはハルナに対して、そのような誓いを立ててい
たのだ。
カエデに、あの夜共に在ると言ってくれたのに。
そう考えかけて、カエデは、自分自身に首を振った。
きっと、ヒタギはカエデがそれ以上雷を怖がると面倒
だと思って、
そのような言葉をかけてくれたのだ。
今の自分は、ハルナだ。
ハルナの代理だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
己を、殺しきらないといけない。
ゆっくりと顔を上げて、ヒタギの顔を見た。
彼は、優しい。
カエデはそう思った。
普通の、奴隷巫女の主にしては、ずいぶんと優しい方
なのだろう。
ヒレンに対する真摯な態度からも、そう思える。
だから、あの夜、初対面のカエデを、湖から抱えだし
てくれて、
共に在ると言ってくれたのだ。
だから、勘違いなど、してはいけない。
今まで言われた言葉も、これから言われる言葉も、
全て、ハルナのものだ。
自分に対してのものではない。
勘違い、してはいけない。
ぱんぱんっ。
乾いた音が耳元でした。
遅れて、ヒタギが両手を打ち鳴らしたのだと気付く。
すぐに、女官たちが部屋に入ってきて、食事の膳を持
つと、出て行った。
カエデの分が、かなり残っているのにもかかわらず
だ。
「あの、私まだ・・・」
「食欲がないのだろう?」
ヒタギが、女官達の一人に、箸を手渡しながら言う。
それでカエデは、何も言えなくなってしまった。
実際、いろいろなことで頭がいっぱいで、あまり食欲
がなかったのだ。
———この細やかな配慮もハルナのもの。
カエデは顔を伏せた。
なぜか今の顔を、ヒタギには見られたくなかった。