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Re: 浅葱の夢見し ( No.364 )
日時: 2013/10/09 22:47
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*「それよりも、なにか欲しいものはないか」

「欲しいもの?」

突然話題が変わり、カエデは首をかしげた。

青い瞳はカエデだけを映している。

先ほどまで民を見ていた瞳に自分だけが映ることができて、なぜか嬉しい。

「ここには珍しいものも多く売っている。

 一つぐらいあるだろう」

「え、えっと…」

カエデは分家とはいえ巫女。

巫女はあまり着飾ったりしないものだから、あまり年頃の娘らしい感覚がわからない。

困ったように眉根をよせるカエデに、何故かヒタギは狼狽した。

「ひ、一つぐらいないのか」

「え、そ、その…」

ヒタギの妙な気迫に押されてカエデはとりあえず一軒の屋台を指差した。

「あ、あれ…」

「よし。

 あそこだな」

あからまさまにほっとした表情を見せると、ヒタギはカエデを抱きかかえるようにして

まっすぐにその屋台に向かった。

それはきらびやかな髪飾りがたくさん並べてある店だった。

近づくにつれ、逃げ出したい気持ちになる。

明らかに、自分には似合わないような可愛らしいものや、華やかなものばかりだ。

「あ、あのねヒタギ!!

 私、今までこういうものに縁がなくて…その…それで…

 やっぱり…えっと…こういうかわいい綺麗なもの、私には似合わないと思うの」

「なぜだ?

 着飾ったおまえは美しくて愛らしい。

 他の男になど見せたくないほどな」

「な、何言って!?」

「慣れていないのなら、慣れればいい。

 おまえはかわいい。

 そんなかわいいおまえが着飾って何が悪い?」

「か、かわいくなんか・・・・!!」

「おれの言葉を信じぬと?

 ほら、これなんかおまえに似合いそうだ」

そういって彼が手に取ったのは、宝石でできた美しい花をかたどった髪飾りだ。

青玉でできた青い花が、水晶の雫にきらめいてとても美しい。

青玉がヒタギの瞳の色ととてもよく似ていた。

「きれい…」

「つけてやるから、じっとしていろ」

止める間もなく、しゃら、と髪が揺れる音がした。

少し不器用な手つきで長い指が髪をくぐる。

「…できた」

すっと名残惜しげにヒタギの指が離れる。

(こんなきれいなもの、私には絶対に合わない)

なんだか恥ずかしくてカエデはうつむいた。

「巫女姫。

 顔をあげてくれ」

頬に大きな手が添えれられ、優しく上を向かされた。

青い瞳と視線がぶつかり息が止まる。

ヒタギはまぶしいものを見るように目を細めてカエデを見た。



「…とても、きれいだ」



すうっと頬を涙が伝った。