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Re: 浅葱の夢見し ( No.368 )
日時: 2013/07/24 21:01
名前: いろはうた (ID: VHEhwa99)

*「な、なんで泣くんだ」

焦ったようにヒタギが言う。

「違うの。

 う、嬉しくて…」

まばたきをすれば、ぱしゃっと涙が落ちた。

どうして涙が出たのかはわからない。

ヒタギは、『カエデ』を見て、きれいだ、と言ってくれた。

ハルナにはこの髪飾りは絶対に合わない。

彼女にはこの銀細工のような清楚なものではなく、もっと豪奢で派手なものが似合う。

だから、彼の言葉が本当にうれしかった。

だけど、嬉しさと共に、別の感情も強くこみあげてきたのだ。



もっと、私を見てほしい。

『カエデ』だけを見てほしい。



———違う。

そんなのはだめだ。

彼は永遠に『カエデ』を見てはいけない。




せめぎ合う心。




…ヒタギは、私を『ハルナ』だと思っているから、こんなにも大切にしてくれる。

それを、決して忘れてはいけない。

絶対に勘違いなどしてはいけない。

……彼が、一瞬でも『カエデ』を大切に想ってくれていると。




「泣くな」

不器用な指が涙をぬぐった。

壊れ物を扱うかのようにそっと触れてくれる温もり。

「こんなことで泣くとは、本当におまえは…」

「あ、あきれた?」

赤くなったであろう目で彼を見上げると彼は、ふいっと目をそらした。

「…本当におまえは…愛らしい」