コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.371 )
- 日時: 2013/07/25 23:02
- 名前: いろはうた (ID: VHEhwa99)
*ちゃらん、ちゃらん、と一歩ごとに、水晶の飾りが揺れて澄んだ音をたてる。
その涼しげな音を聞くと、なんだか嬉しいような恥ずかしいような不思議な気持ちになる。
影水月の地方では、男性が女性に贈り物をするということは、
その女性を大切におもっている、という証だ。
しかし、ここは四鬼ノ宮。
ヒタギにその気はないとわかってはいるのだが、それでも頬がゆるんでしまう。
「ヒタギ。
本当に、これを買ってくれて、ありがとう」
「おれが贈りたかっただけだ。
礼などいらない。
好いている娘に何かを贈りたいのは男の性(さが)だ」
カエデは顔をうつむけた。
いつもだったら、好いている、という単語に過剰反応しただろう。
でも、今は、聞きたくない。
『ハルナ』のことをヒタギが想っているなんて、認めたくない。
信じたくない。
自分が、とても嫌な女になったように思えて、唇をかみしめた。
「どうした」
うつむいているカエデの頬にヒタギがそっと触れた。
とたんに無数の針のような目線がとんできた。
見なくてもわかる。
先ほどから、若い娘たちが熱い視線をヒタギに送り続け、
そしてその隣にいるカエデに険しい視線を送り続けているのだ。
「…な、なんでも、ない」
「………」
ヒタギが無言でカエデを強く引き寄せた。
そのまま彼の胸元に顔を突っ込む形となる。
「どうしたの?」
ヒタギはひどく険しい表情で周囲を見渡している。
カエデの体がこわばる。
まさか、また敵の忍びが現れたのだろうか。
思わずヒタギの衣の衿のあたりをつかむと、青い瞳がひた、とカエデを見据えた。
「…ヒタギ?」
「他の男どもが、皆、お前を見ている」
「…は?」
「くそっ。
おまえが、ただでさえ愛らしいのに、
飾り物なんかつけてさらに愛らしくなったからだ。
他の男が皆おまえに惚れてしまったらどうしてくれよう…」
「な、ないない!
それはないから!!」
「今、おまえに見惚れている男どもを、一人残らず叩き斬ってしまいたい…」
「ち、ちょっと、なに言ってるのよ!?」
「そこの仲のいいお二人さん」
静かだけど、よく通る声が後ろから響いた。
振り返れば、そこには銀髪の青年が、道端に座り込んでいた。
「二人の運命、占ってみたくはありませんか?」