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Re: 浅葱の夢見し ( No.40 )
日時: 2013/03/31 22:51
名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)

*ヒタギは、突然一つのふすまの前で立ち止まると、
カエデを片方の腕に抱えなおし、

 空いたもう片方の腕でそれをすぱんっと開いた。

中に二組のふとんが敷かれているのを見て、カエデは
真っ青になった。

ありえない。

知り合ってから、そんなに経っていない男と二人っき
りで寝るなんてありえなさすぎる。

そんなカエデにも、部屋の状況にも全くかまわず、

ヒタギは彼女を抱えたまま、ずかずか部屋の中に入る
と、

そっと彼女をふとんの上に降ろした。

一人であわあわしているカエデの様子に気づいてか、

ヒタギは膝をつくと、熱心にカエデの顔を見つめた。

みるみるうちに、顔に熱が集まる。

すると、不意にヒタギの手がカエデの方に伸びてき
た。

すっとカエデの後頭部に回り、軽い力で押された。

「わっ、わわっ」

前のめりになったカエデの額にこつんっと軽い衝撃が
走った。

「やはり、熱があるのか?」

水のような声。

それが、あまりにも近い。

認めたくないが、今、ヒタギと額と額を合わせている
らしい。

「な、ななななにしてるのよ!?」

「暴れるな。

 熱があるか確かめているだけだ」

言葉通り、目と鼻の先で、形の良い唇がどこかなまめ
かしく動くのを見て、

恥ずかしさのあまり、気絶しそうになった。

「微熱か・・・。

 まあ大事ないだろう」

やがて、ゆっくりとヒタギの顔が離れていく。

・・・誰のせいで、発熱していると思っているのだ。

カエデは情けないくらい真っ赤な顔でふとんに突っ伏
した。

しばらくカエデの姿を見つめた後、ヒタギは両手を打
ち鳴らした。

「こちらだけ片付けてくれ」

入ってきた女官達にそう言うと、ヒタギはつっぷすカ
エデの隣に座った。

彼の背後で素早くそれが片付けられ、すぐに彼女たち
は静かに出て行った。

その足音が完全に消えたところでヒタギは言った。

「よし、おれも寝よう」

その宣言にカエデは息を吐いた。

これでしばらくは、心臓がおかしくなったりしなくて
すむ。

「おやすみなさい」

顔を上げながら言うと、なぜかヒタギは嬉しそうに微
笑んだ。

「ああ。 

 ・・・おやすみ」

そして、彼は当然のようにカエデのふとんの中に入っ
てきた。

あまりにも衝撃的過ぎるヒタギの行動に、彼の腕によ
って自分の体が横たえられ、

優しく掛けぶとんをのどもとまで引き上げれても、カ
エデは一切抵抗しなかった。

いや、できなかった。

「な、なんでここで寝ようとしてるの・・・?」

「おまえが寝ろと言った」

しれっというヒタギを信じられない気持ちで見た。

遠回しに早く自分の部屋に帰れ、と言ったつもりだっ
たのだが、

この男にはまったく通じていなかったようだ。

だいたい、なんで四鬼ノ宮の忍びの頭目たる者が奴隷
巫女なんかと一緒に

寝ようとするのだ。

「ねえ、ちょっと!!」

目の前にある胸板をぐいぐい押して、ふとんから追い
出そうとしても

びくともしない。

ただ指先から、温もりが伝わってくる。

「・・・・・・なんだ。

 もう寝ようと言ったのはおまえではないか。

 おれもいささか疲れた。

 今夜は、もう眠らせてくれ・・・」

「いや、そうじゃなくて!!

 だから、その・・・」

ヒタギは、すでに眠たげな光を宿す目でカエデを見
た。

「ああ・・・おれに腕枕をしろというのか」

「は!?ち、違」

言葉が終わる前に少し強引に引き寄せられ、頭の下を
たくましい腕がくぐった。

思っていたよりもずっと寝心地がいいのでカエデはと
っさに文句を言えなかった。

「・・・これでいい」

満足げに言うと、カエデはすっとまぶたをおろした。

・・・黒くてものすごく長いまつげが憎たらしい。

すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。

本当に寝てしまったらしい。

よっぽど疲れていたのだろう。

さりげなく肩を抱いてくる腕も、無防備な美しい寝顔
も、何故か嫌だとは思えなくて、

おとなしくヒタギの腕の中で目を閉じた。

この様子だと、別になにもおかしなことはしてこない
だろう。

それに、この腕の中にいるとやはり安心する。

そう思っていると、いつのまにか意識は闇に落ちた。