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Re: 浅葱の夢見し ( No.415 )
日時: 2013/09/07 21:39
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*当然のごとく、そこにホムラの姿はない。

だが、白い紙切れが落ちていた。

カエデの身代わりとなるはずだった式神の形代だ。

カエデが歩み寄ってそれを拾い上げるのと、

結界が破壊されたのはほぼ同時だった。

硬い音を立てて、薄紅の結界の欠片が闇の中に散る。

カエデは強い力で手首を掴まれた。

「っつ、あっ!!」

長い指が、カエデの手から乱暴に式神を抜き取り細かくひきさいた。

「何するの!!

 ———っ痛!!」

「———来い」

氷よりも冷たい声音にカエデはびくりと震えた。

そして、今までにないほど強い力で手首を引っ張られ、そのまま乱暴に抱き上げられた。

かすれた悲鳴が口からもれたが、それにかまわずヒタギは一瞬で部屋まで駆けた。

荒っぽい足取りで廊下に上がり、部屋の中に入ると彼はカエデを布団の上に降ろし、

いきなりその華奢な肩を強く押した。

抵抗できない程の力に、カエデは布団の上に背から倒れるしかなかった。

押し倒されたのだと遅れて気づく。

カエデの動きを封じるように、ヒタギの手が、彼女の手首を強く布団に押し付けて握り、

彼は覆いかぶさるようにして彼女の瞳を覗き込んだ。

「…いつから、あの男と…つながっていた」

恐怖と緊張で声が出ない。

どうしても体の震えが止まらない。

彼が恐ろしい。

その瞳が冷たくて、熱くて、怖い。

こんなヒタギは知らない。

「…おれには、言いたくないか」

爆発しそうなのを必死に抑え、こらえているから

低く硬く冷たい声になっているのだと、ようやくカエデは気づいた。

ホムラとは、影水月を離れた頃から全然会っていない。

だから四鬼ノ宮の情報は流してない。

そもそも、そんな気はとっくの昔に無くしていた。

ヒタギは何に怒っているのだろう。




『巫女さんは、ご自分の意志で、若頭さんのもと離れる』




銀髪の青年の言葉がよみがえる。

もしかして、あの占い師の青年の言葉を気にしているのだろうか。

そんなことはない。

あなたの傍を離れることはない。

絶対にない。

そう言おうとして、カエデはわずかに唇を開いた。