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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.426 )
- 日時: 2013/09/15 20:58
- 名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)
*「…な、んでなの…」
震えてかすれた声がのどから絞り出された。
ヒタギの動きが一瞬止まった。
「なんで、あの人なの…?
どうして、私じゃないの…?」
「…何のことだ」
少し落ち着きを取り戻したらしいヒタギの声がやけに遠く感じられた。
かろうじて残っている理性がもうやめろと言っているのに、
心がいうことをきかない。
「私の…何がだめなの…?
…あの人に…何が負けているの…?」
「…だから、何の———」
「氷滾!!!」
涙がさらにこぼれた。
「私を見て!!
あの人じゃなくて、私だけを見て!!」
ヒタギが目を見開いた。
だけど、それすらもわきあがる涙で曇って見えなくなってしまう。
言葉と想いは同じなのに、向かう先は互いではない。
それがこんなにもつらい。
そばにいるのが苦しい。
誰よりも近くにいたいのに、求められているのが『カエデ』じゃない。
その事実を思い知って、己の醜い部分を見せてしまいそうで怖い。
ああ、
言ってしまった。
熱くなって上手く考えられない頭でそれだけ思った。
「……ごめんなさい。
今の、全部…忘れて…。
………お願いだから、今日はもう、帰って……」
もうこれ以上、自分のひどい顔を、ヒタギにだけは見られたくなかった。
一秒でも早く、ヒタギから離れたかった。
「…巫女姫」
「か、帰って…!」
再度強く言うと、ヒタギは目元をゆがませた。
ヒタギの体に力が入り、殴られるのかと身を固くしたが、彼の体は、すっ、と遠ざかった。
「……勝手にしろ…!!」
手首の拘束がなくなる。
カエデは、足音荒く部屋を出ていく青年の姿を一瞬見て、すぐに視線を逸らした。
姿を見るだけで、心がえぐれてしまいそうになる。
もう、後には引けなかった。
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