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Re: 浅葱の夢見し ( No.442 )
日時: 2013/09/21 21:51
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*何故、私をそんな目で見るの。




私が愛しくてたまらないというように。


私の愛を乞うように。




期待なんてしたくない。


あとで傷つくのは私だと






いやというほど、


わかっているから。





*昨夜から、ヒタギの姿を見ていない。



わずかに欠けた満月を見て、カエデはそう思った。

任務に行ってしまったのだろうか。

……それとも、カエデに会いたくないだけあろうか。

カエデは緩慢な動くで部屋を出て、庭に降りた。

あたりは咲きほこる花々のかぐわしい香りがむせかえるほどにみちていた。

まとわりつくような花の甘い香りに包まれながら、再度月を見上げた。

冷たい銀の輝きが、ヒタギが愛用している針を思い起こさせる。

彼は、今、どこで何をしているのだろう。


「……会いたいな」


ぽつりと出たつぶやきが自分にはね返って、カエデは小さく震えた。

うつけだ。

自分は大うつけだ。

絶対に”カエデ”を見てくれない人に会いたいと、愛しいと、思ってしまうなんて。

だめだ。

何をしても、どこにいても、思うのはヒタギのことばかり。

苦しい。

不覚にも、涙が出そうになった。

会いたいのに、会えない。

会ってはいけない。

こんな顔、見せられない。



「———これほど美しい花々に見向きもせず、月をひたすら眺めるとは、

 相も変わらず、変わった娘よ」



色気たっぷりのこの声。

涙はひっこんで、かわりに滝のような汗が流れ始めた。

振り返りたくない。

ものすごく振り返りたくない。

だが、振り返らないわけにはいかなかった。

なんせ、この声の主は、若くして才ある陰陽師でもある、この国の第三皇子なのだから。

だから、カエデは、のろのろと振り返るしかなかった。


「久しいな」


(でっ、出たわね、色気垂れ流し男、その2!!!!)

見た人の目を奪わずにはいられないほどの、美しい金髪を夜風に遊ばせながら、

常にけだるげなかの皇子は、カエデを見て口角を上げた。

……色気たれ流し男その1のことを考えていたら、その2が出てくるなんて、

なんの罰なのだこれは。