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Re: 浅葱の夢見し ( No.445 )
日時: 2013/09/22 22:23
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*「おっ、御君がおられましたことに気付かず、申し訳ありません。

 …………再びお会いできて光栄に存じます」


……だめだ。

………最後の一文が完全な棒読みになってしまった。

そもそもこの皇子が気配を完全に消して近づいてきたのが悪いのだ。

思っていることが顔に出ているはずだが、シキは怒るどころか、むしろ
嬉しそうに笑った。


「そのような顔でそのようなことを言われたのは初めてだ。

 …くくっ。

 やはり、そなたといると退屈しない。

 あと、おれのことは、前もシキと呼べと言ったはずだ。

 …ああ、そうだ。

 おれも、そなたのことを名で呼ばねばならぬな。

 なあ…

 ——————カエデ」


かすかに、本当にかすかに彼女の瞳が揺らいだ。


「……それは、私の名ではございません」


シキの紫の瞳の色が濃くなった。

薄く形の良い唇がより深く笑みの形に刻まれる。


「今さら、ごまかさなくともよい。

 俺はすべて知っている。

 …なんなら、今すぐ、語ってみせよう」


ねっとりとした花の香にとらわれて、動けない。

彼の唇が滑らかに動き出すのを止められない。


「まず、そなたの真名は、楓」


言霊のこもった己の真名は、肌をあわだたせた。


「カエデだ。

 …影水月、分家の銀の言霊使いの巫女姫」


ざあっ、と顔から血の気が引くのわかった。

本能的に右足が一歩後退した。

それを詰めるようにして、シキが一歩距離をつめる。


「ある時、ここの次男坊が、影水月の巫女をよこせと言ってきた。

 当然のごとく、影水月は大事な本家の大巫女を失いとうない」


———知っている。

この男は全て知っている。

カエデは確信すると同時にはっきりとした恐怖を感じていた。

一体どこにその情報を手に入れたのか。


「そこで、影水月は、大巫女と姿が似ておるそなたを、大巫女の代わりに差し出した」


影水月の上の立場の人間しか知らないはずの事実が、

秘密が……。


「そうして、そなたはこの———」

「やめてっ!!!」


カエデの鋭い声が闇を揺らした。


「やめて……ください……」

「そなたがそう言うのなら、ここまでにしておいてやろうか」


そういうと、シキは艶然とした笑みを浮かべた。

勝者の余裕がこちらにまで伝わってくる。