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Re: 浅葱の夢見し ( No.450 )
日時: 2013/10/01 23:16
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*「なにゆえ…ですか」


一度にいろんなことが起こりすぎて混乱した頭で、ようやくカエデは言葉を絞り出した。


「なにゆえ…そのような…。

 他に、あなた様をお慕いする美しい姫君などいくらでもたでありましょう?

 何故、私なのですか…?

 何故、私のようなどこにでもいるような巫女なんかを…」


「そなたがこの世でただ一人、

 おれという人間を、

 紫綺という男を見てくれたからだ。

 …カエデ」


久しく呼ばれていなかった己の真名に、

深い想いを含んだ響きに、酔ってしまいそうになる。

熱いものがちらつくその紫の瞳にとらわれてしまいそうになる。


「そなたのような女…?

 はっ。

 …笑わせるな。

 そなたのように月のように美しく清らかで、

 男の心をとらえまくる女が幾人もいてたまるか」


そう言うと、愛しそうに彼はカエデの頬に手をあてた。

夢のように優しく、その指は肌をなでる。


「他の女は、おれを見ない。

 好いているなど愛しているなど言うが、所詮は、我が第三皇子の身分を欲してのことよ。

 …だが、そなたは、違う」


すうっと紫が濃くなった。

その力強い腕が、きつくカエデの腰を抱いた。


「そなたは、そなただけは、まっすぐにおれを見てくれる。

 紫綺という、一人の人間の男に、まっすぐに言葉をぶつけてくれる。

 それがおれにとって、どんな宝玉よりも、貴重で愛おしい」


その想いを、否定できない。

それはカエデ自身が抱いた想いでもあるから。


「そなたはこの世でただ一人。

 他に変わりなどおらぬ。

 そして、ただ一人のそなたが想うのも、この世でただ一人だ。

 …おれはそのただ一人になりたい」


狂おしい想い。


自分だけを見てほしい。

この人を、離したくない。

傍にいたい。

この人の、ただ一人だけの特別な人になりたい。


これは、自分の想いじゃないはずなのに、同じだ。

重なってしまう。


「おれと共に宮廷に来い。

 おれなら、そなたを決して離しはしない。

 この先、我が腕(かいな)に抱くのはそなただけで、永劫そなただけを見て、

 愛すると、今ここに誓おう」


ずっと、ずっと、欲しかった言葉。

ぐらぐらと心が揺れている。

シキは、誓いを破らない男だ。

きっと、それこそ宝玉のように大切にしてくれると、そう思える。


…この人について行ったら、すべて、すべて忘れられるだろうか。

ヒタギのことを。

彼がハルナのことしか見ていないことを。


——————この、想いを