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Re: 浅葱の夢見し ( No.451 )
日時: 2013/09/28 13:47
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*———だけど。


「もし…」


声が震えるのを抑えきれず、カエデはこぶしを握りしめた。

まっすぐにシキの目を見上げる。


「もし、私がお断りしたら…どうなるのですか?」


一瞬の沈黙。

雲が月を隠して、あたりが暗くなった。


「…そのときは、しかたあるまい」


ひどく優しい口調でシキは言った。

ぞわりと肌があわだつ。

シキから逃れようとしても、腰にまわる強い腕がそれを許さない。


「おれが知っていることを、そなたの秘密を、

 四鬼ノ宮の者どもに話さねばなるまいな」

「っ!?」


顔色を変えたカエデを見て、楽しそうにシキは続ける。


「怒り狂うであろうな、四鬼ノ宮は。

 なにせ、手に入れたはずの影水月の頭たる大巫女は、分家の巫女だったのだ。

 影水月を襲うだろう。

 むかえうつ影水月も同等の勢力。

 両家共に滅ぶだろう。

 …これで、おれの手の内から、そなたを奪い返す者は誰もいなくなる。

 そなたが真におれだけの娘となるのだ」


大切な人が、いなくなる…?

ホムラも。

ハルナも。

……ヒタギも。


「なんで…そんな卑怯です!!」

「なんとでも言うがいい。

 おれはそなたの全てが欲しい。

 そのためならば、手段など選ばぬ。

 それに、なにも絶対に秘密を話すとは言うてはおらぬ。

 そなたがおれと共に来るのならば、両家に手は出さぬと、約束しよう」


敵だ。

この男は、影水月にとって危険人物だ。

守らねば。

言霊の力を、使って…。

唇をかみしめ、霊力を高めようとする。

その時、シキの紫の陰陽装束が目に入った。

シキが、優秀な陰陽師でもあるのは有名だ。

仮に、ホムラの時のように言霊で強制転送しても、また戻ってくるかもしれない。

ヒタギに秘密を話すかもしれない。

その時がカエデが今まで守ってきたものが壊れる瞬間だ。

全て、壊れてしまう。

それがいやなら、今ここで、シキを殺(あや)めるしかない。

言霊使いには、最終奥義である『死の呪い』がある。

それを、シキに向かって『話す』のだ。


…できるだろうか、自分に。

シキを殺めることを。

彼の想いをすべて否定することを。