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Re: 浅葱の夢見し ( No.471 )
日時: 2013/10/25 23:05
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*どうして。


こんなにも求めていた私への『愛』なのに


どうして、こんなにも——————哀しいのだろう。


恋い焦がれることがこんなにも哀しいだなんて、知らなかった。


息が止まりそうになるほど、気が狂いそうになるほど苦しいだなんて。


苦しい。


苦しい。


苦しい。


優しいものが欲しい。


優しいものだけが、欲しい。








 ———カエデ



不意に誰かに呼ばれた気がして、カエデはそっと目を開けた。

自分は眠っていたようだ。



———不思議な、夢を、見ていた。

幻のごとく、はかなくて、美しくて、鮮やかで、哀しくて、切ない浅葱色の夢。



頬を涙が伝っているのを感じて、カエデはゆっくりとまばたきを繰り返した。

ぐらぐらと揺れ動く視界に、ぼんやりと虎の毛皮が見えた。

どうやらそれの上にまたがっているらしい。

ふとももの下からしなやかな筋肉が絶えず動いているのを感じ、完全に目が覚めた。


……と、虎だ。

このもふもふは虎だ。

周囲の景色がすさまじい速度で流れていく。

ものすごく信じたくないが、どうやら、現在、虎にまたがって疾走中らしい。

振り落とされたら、と考えるだけで寒気がする。

思わず虎の毛皮を掴む手に力がこもる。

そこで、初めてカエデは自分の手を包み込んでくれると大きな手の存在に気付いた。

どきりと鼓動が跳ね上がった。

だが一瞬見開かれた藍の瞳は、すぐに落胆の色に変わった。

違う。

彼の手ではない。

あの手はもっと骨ばっていて、少し硬いけど、とても温かかった。

この手は———


「…目覚めたのか?」


後ろから吐息と共に端々に色気のにじむ言葉を耳に吹きかけられ、カエデはとび上がった。


「ひうあっ」


「暴れるでない。

 おちるぞ。

 ……にしても、悲鳴まで色気のない娘。

 おれも、なにゆえこのようなのに惚れてしまったのか…」


「なっななな!

 じゃ、じゃあ、さっき私を振り落としていったらよかったじゃないですか!!

 どうせ”こんなの”でしょう!?」


「…ほう」


シキの声の調子が変わった。

あまりの嫌な予感に、カエデの体がこわばる。


「…そなたは、なにゆえこの俺がわざわざ四鬼ノ宮まで参ったか

 理解しておらぬようだな。

 やはり…そなたは体に直接直接教えてやったほうが良いのか…?」


「よよよよよくないですっ!!!!

 全然っよくないですっ!!!!」


(あああああっ!!!???

 なんでそこで色っぽく指を絡ませてくるの!!???)


恐怖で急降下していた血が、羞恥で一気に急上昇してきた。