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Re: 浅葱の夢見し ( No.472 )
日時: 2013/10/20 10:54
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*「って、今なんで私たち、今、虎なんかに乗っているんですか!?」


「これはおれの式神。

 案ずるな。

 かみついてくることも、振り落とすこともない」


「…………それだったら、馬とかでもよかったんじゃ…」


「ありえぬな」


「…」


いつになくきっぱりとした返事にカエデは一瞬おし黙った。

シキは優秀な陰陽師。

動物の式神などいくらでも出せるはず。

だから、馬などの穏やかな気性でよく走る動物の式神を出さなかったのは

なにか理由があるに違いない。

…そう、思いたい。


「あの………なんであえて虎にしたんですか…式神…」


「おれが虎が好きであるから」


「…………」


夜風が激しく髪を揺らす。

カエデは予想通りの言葉にため息をついた。


「…ごめんなさい。

 聞いた私が悪かったです」


「……落とされたいのか…?」


「う、うそですっ!

 じょ、冗談ですって」


そう言いながら、その手は万が一カエデが落ちてしまわぬよう、しっかりと彼女の手を握っていた。

がくん、という衝撃と共に周囲の景色が止まった。

腰に腕が回って、シキに抱き上げられる。

彼が軽やかに虎から降りると、すぐに虎が煙と共に一枚の紙切れになった。


「どうかなさったんですか?」


「一度休みをとる。

 今宵はここで世を明かす」


 式を解いた式神を拾いながらシキはそう言った。


「……」


カエデはわずかに目元を歪ませたが、何も言わずシキにされるがままになっていた。