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Re: 浅葱の夢見し ( No.479 )
日時: 2013/10/29 23:02
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*「だが、このままにすると、明日の朝になれば目がはれているだろう。

 …まあ、おれの月の巫女がかわいい出目金になった姿も見てはみたいが…」


カエデの口があんぐりと開いた。

まずそもそも、この男のものとなった覚えはない。

しかも、出目金ってなんだ。

出目金って。

今の強烈な言葉の数々に、あれだけ止まらなかった涙が引っ込んでしまった。


「しかし、見ようものなら、おれの月の巫女が照れてみぞおちに一発くれるやもしれぬ。

 …出目金はあきらめようぞ」


…何故、若干残念そうな顔で目元を撫ででくるのだ。

だが、やがてその指の優しい動きが止まった。

ひどく真剣な表情で、こちらを見つめてくる。


「カエデ」


両手で頬を包み込まれ、瞳を覗き込まれた。

まこと、人とは思えぬ美貌にカエデは状況も忘れて、一瞬みとれた。


「そなたが、愛おしい」


火のきらめきを帯びた毛先をうっすら紅に染めた金髪。

高い鼻梁。

形の良い眉。

薄く、みずみずしく潤っている唇。

けぶるように長い睫の下には、ただひたすらカエデのみを映す宝石のような紫の瞳。

その紫水晶のような瞳の奥に、切実に請い願う炎のようなゆらめきがある。

カエデは、ただ頬を赤く染めて、至近距離からシキを見つめた。


「おれは、そなたの心を手に入れられるならば、なんでもしよう。

 まこと、なんでも、だ。

 あのような男、おれが忘れさせてやる。

 だから———」


カエデは、ただ、見とれていた。

彼の切なくなるほどの美しさに。

その、切実な想いに。


「おれを、見ろ」


ああ。

なんて。


「おれだけを、見ていろ」


ああ、なんて美しい。


「…頼む。

 何だってしよう。

 頼むから…おれを好きになれ……!」


背に強い腕が回り、強く、強く、抱きしめられた。

彼の手は、少しだけ震えていた。


「おれを、愛せ。

 おれだけを、愛せ……ッ!」





なんて、美しくて——————哀しいんだろう。