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Re: 浅葱の夢見し ( No.49 )
日時: 2013/04/02 14:11
名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)

*「・・・何故(なにゆえ)」

「え?」

レイヤは不可解なものを見るような顔でこちらを見た。

「・・・おまえは、女だ。

 男であるおれに、腕力でかなうはがない。

 それにもかかわらず、おまえは鍔ぜり合いにもちこ
んだ。

 何故そのようなことをしたのだ」

女だから、と馬鹿にする響きはなく、ただ困惑してい
るようだった。

カエデは鈍く痛む右手首にそっと触れた。

たしかに、今のは少々無謀だったかもしれない。

———でも。

「私は、じりじりと体力を削られて負けるより、一瞬
の勝機を見出そうとしただけです」

本家の盾となり、剣となる分家の者は、戦いの中では
決して死んではならない。

負けてはならない。

最後まで生きることをあきらめてはならない。

そういう掟がある。

死んでしまえば、本家を、影水月を守れなくなるか
ら。

だから、いずれ負けると悟ったからこそ、攻撃を受け
流し続けるのではなく、

手首が折れてしまうかもしれないような一撃を、真正
面から受け止めたのだ。

「おまえさ・・・」

はっと横を見れば、トクマが厳しい表情でこちらを見
ていた。

カエデは、一気に青くなった。

奴隷巫女の分際で剣術稽古をさせてもらった挙句、わ
ずかとはいえ

レイヤを傷つけてしまったのがまずかったのだろう
か。

それとも、生意気なことを言うやつだと思われてしま
ったのだろうか。

それとも・・・。

とりあえず、ここは謝っておいたほうがよさそうだ。

心の中で大きくうなずくと、カエデは勢いよく、がば
っと頭を下げた。

「申し訳ありませんっ」

「すごいわ」

二人の声が重なった。

同時に話したことで、相手がなんと言ったのか聞こえ
ず、

二人は微妙な表情で相手の顔を見た。

一瞬、気まずいような何とも言えない空気が流れる。

「あの、今なんて・・・」

「さっきなんて言った?」

また声が重なる。

二人は同時に顔をしかめた。

「おい。

 おれがしゃべっているときにしゃべんなって!」

「そちらこそ!」

二人はむううとにらみ合った。