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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.499 )
- 日時: 2013/11/07 23:38
- 名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)
シュッシュッシュッシュッ
鋭い風切り音。
カエデは身をこわばらせた。
ぱたっ、ぱたっと軽いものが地面に倒れる音がした。
顔をあげたカエデの目の前で、風に運ばれてきた小さないくつもの紙切れが
火にあぶられ、散る。
切り裂かれた式神の残がいだ。
闇の中、銀のきらめきが、カエデの目を射た。
「…ぁ」
あの鋭い銀の針。
闇に溶けるような、風になびく黒髪。
「…あ、あ」
夜の黒の中でも、深く鮮やかな青の瞳。
呼吸が止まる。
世界が止まる。
たき火が爆ぜ、火の粉が指にかかる。
その熱が、これが夢ではないと伝えてくれる。
一瞬でシキの式神たちを消し去った者が、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
その姿は月光と炎に照らされて、鮮やかにカエデの瞳に映し出された。
その、あまりに恋しい人の姿。
ありとあらゆる感情が一気に押し寄せ、声が出なくなった。
目から透明な雫がこぼれて、頬を伝う。
たった一日会わなかっただけだというのに、こんなにも懐かしい。
ああ、夢ならば。
これがいっそ夢ならいいのに。
それなら絶対に目覚めてやらないのに。
「な、なんで来たのよ、ヒタギのうつけ!!
う、うつけ!!うつけ!う、うつ、けえ…!!!」
最後の方は嗚咽(おえつ)をこらえきれなかった。
「おまえを迎えに来た」
だけどこれは夢ではなくて。
ヒタギの姿は消えなくて。
幻ではなくて。
その瞳はどこまでも穏やかで、声も優しくて。
カエデはふらふら立ち上がった。
———ああ。
——————会いたかった。
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