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Re: 浅葱の夢見し ( No.500 )
日時: 2013/11/08 23:06
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*がっ

ヒタギのもとへと行こうとしたカエデの手首を大きな手が掴んだ。

強く抗えぬ力で後ろに引かれ、体勢を崩した彼女の腰をしなやかな腕がまわって引き寄せた。


「っきゃ」


「どこへ行く気?

 おれにことわりもいれておらぬというのに」


けだるげな声が耳元でささやく。


「巫女姫っ!!」


一気にヒタギとの間に距離があく。


「ヒタギ!!

 んうっ……!!」


シキの冷えた手が、カエデの唇を優しく、だがしっかりと覆う。


「おれの前でほかの男の名を呼ぶとは、そなたも大した娘。

 それほどまでにおれが嫉妬に狂うのが見たいか?」


どこまでも優しくささやかれ、指にシキの指が深く絡んできた。

ヒタギの視線が一気に険しくなる。

その視線は、すぐにシキからあたりに走った。

茂みの奥からシキと同じ紫の瞳の獣たちがゆっくりと姿を現し、

ヒタギのもとへと向かっていく。

シキの式神たちだ。

それも数え切れぬほどの。


「貴様もつくづくしこい男よ。

 あまり足跡を残さぬよう、わざわざ馬ではなく虎で走ったというのに」


シキの言葉にカエデは目を見開いた。

やはり、虎で移動したのにはそれなりの理由があったのだ。


「おれは忍びでございます。

 追跡など慣れております」


「で、あろうな。

 だから、こうしてわざわざ火を焚いてやった」


ヒタギが音を追ってきていることに気付いて彼をおびき寄せるために、

わざと火を焚き、煙でこちらの場所を知らせたということか。

胸に冷たいものが落ちる。


——————まさか。