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Re: 浅葱の夢見し ( No.501 )
日時: 2013/11/09 19:02
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*「なあ、巫女姫。

 誓いとは守るもの。

 約束とは…破るものであろう……?」


シキはカエデだけを見て、カエデだけを愛すると誓ってくれた。

だが、四鬼ノ宮、ヒタギに手をださないと言っていない。

『約束』をしたのだ。

ただ、それだけだ。

(いやだ!ヒタギが…!!)


「っや、やめ……っ!!!」


口を覆う手を無理やりずらしてカエデが叫ぶよりも早く、

獣たちは主の意志により、一斉にヒタギに襲いかかった。

式神の獣は普通の獣よりもはるかに体が大きい。

あの鋭く、大きな牙や爪で引き裂かれたら…。


「ヒタギ!!!」


「…いま決めた」


今にも駈け出そうとしたカエデの腰を再び強く引き戻し、

シキはより強く、より深く指を絡ませた。


「……そなたが、おれ以外の名前をおれの前で二度以上呼べば、殺す」


「な、何を…!?」


「ああ、なにもそなたを殺(あや)めるのではない。

 相手の男だ。

 ……四鬼ノ宮の次男が一人目か…。

 …………さて、どうしてくれよう」


「っやめて!!

 やめてくださ——————」





ぱんぱんぱんぱんっ





連続して乾いた音があたりに鳴り響いた。

桜吹雪のように、数え切れぬほどの式神の欠片が闇夜に散る。

そして、その中央には何もなかったかのように立つ、黒髪の忍の姿があった。
  
強い意志を持つ青い瞳が、まっすぐシキを射ぬく。


「…余興は、これくらいでよろしいでしょうか、シキ様」


そう言うと、ヒタギは腕についた紙片を軽く払って落とした。

手に握る鋭く長い針で、全ての式神を一瞬で消し去ったのだ。

安堵のあまり崩れ落ちそうになったカエデを抱えなおすと、

シキは、自然体で立っているように見えて、まったく隙を見せない青年に向かって笑った。


「ああ。

 大義であった。

 では……本番と参ろうぞ」


シキの顔を見上げたカエデの肌が泡立った。

何かが、起こってしまう。

そう、本能が告げる。

止めなければ。

ヒタギが、ヒタギが!!