コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.52 )
- 日時: 2013/04/02 14:14
- 名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)
*「おわっ!
ヒタギ様!
あいかわらず、影薄いって!」
「・・・」
影が薄いのではなく、気配を完全に消しているだけな
気がする。
「ヒタギ様が稽古場にくるなんて珍しいじゃん。
どうしたんだ?」
「そういうおまえは、おれの巫女姫に何をしている」
「・・・」
この男のものになったおぼえはないが、今は奴隷巫女
のような身分なので、
あながち間違ってはいない。
間違ってはいないのだが・・・。
「何って・・・勧誘だよ、勧誘」
「ほう。
勧誘などどうでもいいことの前に、おれは
おまえに巫女姫に話しかけもよいと許可したおぼえ
はないが、トクマ」
言っていることはめちゃくちゃだが、顔がこれ以上は
ないほど無表情で、
青い瞳は冷たい光をたたえていた。
「顔がおっかないって!
なあ、落ち着けよ。
なんかよくわからないけど、わるいことしたなら謝
るからさ」
「謝罪のみで済むと思っているのか」
「ひ、ヒタギ!」
このままだとトクマがヒタギに殺されそうな気がしたので、
あわてて二人の間に割って入った。
「私が先に話しかけたの!」
「おまえが?
・・・何故?」
ヒタギの瞳がさらに冷えた。
その視線に委縮しながらも、カエデはなんとか言葉を
しぼりだした。
「そ、その・・・
けっ、剣術の稽古がしたくて・・・」
ヒタギを探すために部屋を出た、なんて口が裂けても
言えない。
「剣術など必要ない。
おれが、お前を守る。
そして———」
トクマの口があんぐりと開いたのを見た。
その正面に立つ、朝から麗しい男が続ける。
「もし、どうしても剣術の稽古がしたいならおれに言
え。
おれが相手をしよう」
「・・・なんでそうなるのよ」
「それは必要ないですヒタギ様」
今度はレイヤが間に割って入ってきた。
「ああ、そうだな。
やはり巫女姫に剣術は———」
「違います。
おれが相手をします」
ぐっとヒタギの眉間にしわがよった。
「何故おまえが相手をするのだ。
おれでも十分だろう。
剣ならば多少使える」
「その娘、おれとまともにうちあえました。
そのような者、ここにはそうおりません。
ヒタギ様でもよくて相打ちになるかと」
つまり、いい練習相手だからおれによこせ、と彼は言
いたいらしい。
口調は静かで丁寧だが、その奥に潜むただならぬ何か
を感じて、
背中を冷たい汗がつたう。
何とかしなければ何か起こる。
それは、予想でなく、もはや確信であった。