コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.543 )
- 日時: 2013/12/01 22:28
- 名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)
*カエデはうつろな目で、ただ自分の手を見つめていた。
彼女は今、見たことのないきらびやかな部屋の中で、
先程まで自分が横たわっていた、上等な絹の布団に座り込んでいた。
おそらくシキに宮に連れてこられたのだろう。
紅が脳裏をよぎる。
ヒタギの閉ざされた瞼。
それが開くことは、あの青い瞳を見ることは、もう—————————
思い出したくない、と頭がまた考えることを拒否する。
彼女の手の中には、あの銀細工の髪飾りが静かに輝いていた。
———巫女姫
「っ!!」
水のような声。
聞こえた気がして、思わず立ち上がってあたりをすばやく見回す。
だけど、誰も、いない。
浮き上がった心が、一気にどん底にたたきつけられる。
下を向いた視線が、再び髪飾りにうつる。
変わらぬ輝き。
派手じゃないけど、華奢で、清楚で、青玉が美しくて、
…ヒタギの瞳の色と同じで。
———とても、きれいだ
「…っう」
もう、あの優しい声はきけない。
もう、二度と、会えない。
会いたくても、会うことはかなわない。
ヒタギは、死んだのだ。
私の、せいで。
「うわぁぁぁあああああああああああああああっっ」
カエデは叫んだ。
声が枯れるほど泣き叫んだ。
だけど、いくら泣き叫ぼうとも、過去は戻らない。
ヒタギは現れない。
迎えに来てはくれない。
ごめんなさいなどという生ぬるい言葉では決して許されない。
シキが手を下したとしても、それをさせたのはカエデだ。
私が殺した。
私がヒタギを殺した。
己の浅慮がこの事態を、大切な、誰よりも守りたい人の命を奪った。
その事実が容赦なく心にたたきつけられる。
それは、ゆっくりと、だけど確実にカエデの瞳の光を砕き破壊していった。
やがて部屋を訪れた紫金の皇子は、
ただ声もなく涙を流し続ける白銀の巫女の姿を見て彼女の体をそっと抱きしめた。
愛しい彼女の名を呼んだ。
何度も何度も。
だけど彼女は応えない。
美しい藍の瞳には、彼の姿は映らない。
その瞳が映したいのはただ一人の青年だけ。
白銀の巫女の、光が失われた瞳を見て、初めて紫金の皇子は、己が最も欲したもの、
彼女の心と愛を、永遠に失ったことに気付いたのだ。
「おれは、あやつをあやめたこと、わびはせぬ。
おれを憎み呪うがいい。
おれはそれでもそなたを愛そう。
たとえこの身が滅び朽ち、魂だけになったとしても、
そなたを愛し続けよう。
おれの一生をかけて。
……たとえ、そなたが一生おれを見てはくれなくとも」
the end