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Re: 浅葱の夢見し  ( No.558 )
日時: 2013/12/09 11:54
名前: いろはうた (ID: jhXfiZTU)

*ひどく緩慢な動きでカエデは瞼を開けた。

靄がかかっているかのように意識がはっきりしない。

ぼんやりとした視界の中、かろうじて今自分が四鬼ノ宮の屋敷の一部屋にいることがわかった。

横たわっていた布団から起き上がろうとしたが、できない。

手足にまったく力が入らない。

…いや、まずそれ以前に。


「な、に……こ…れ……」


彼女の細い両手首と足首は、細い銀の鎖で、広くはない部屋の壁につながれていた。

これでは、部屋の外に出られない。

ヒタギの安否を確認しなければならないのに。

だけど、いくらひっぱっても、見た目に反して鎖は全く切れない。


「…その鎖は、対忍び用の特注製だ。

 そう簡単に切れはしない」


「ひ、たぎ………!!」


水のような声。

ヒタギが、いつの間にか傍に立っていた。

だけど、視界がぼやけてうまく彼の姿をとらえられない。


「それほどまでに必死に鎖を引きちぎりたいほど逃げたいのはどこだ」

「ひ、たぎ…。

 か…らだ…は…?

 だいじょう…ぶ…?」

「…そうやって、おれの心配をしているふりをして、油断を誘うつもりか」

「ひ…たぎ…?」


ようやくカエデはヒタギの様子がおかしいことに気付いた。

彼が発する空気があの夜とひどく似ていた。

ホムラが迎えに来てくれた、あの夜に。

触れればすべてを喰らいつくされる、手負いの獣のようなまなざしにびくりと震えた。

ヒタギが ”男”であることを強く意識した。

彼がこちらに一歩踏み出してた。

思わず本能的に後ずさろうとする。

ちゃり、と小さな金属音がした。

鎖が動きを封じて、それ以上距離を取れない。

それでももがこうとするカエデを見て、

ヒタギはそれまで一切の表情を浮かべなかった顔をはっきり歪めた。


「…そんなに、いやか」

「……っ!」


一瞬で距離を詰められ、しゃがみこんだヒタギに強く両腕を掴まれた。


「やっ…だ、やめて…っ!」

「何故、それほどまでにおれを厭う……!?」


ヒタギが嫌なわけではない。

ただ、今のヒタギは、怖い。

あの夜と同じ。

カエデの知らないヒタギが露わになっていて、怖い。

そう言いたいのに、うまく言葉を紡げない。