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Re: 浅葱の夢見し ( No.89 )
日時: 2013/04/04 07:44
名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)

*「おまえには毒々しい紅は似合わない。

  前にそう言わなかったか」

無表情で言い放つ、ヒタギを床に座ったまま見上げた。

何故だろう。

外は舞日和のいいお天気だというのに、

ヒタギの周囲の空気はずいぶんと、気温が低い。

ひんやりとした目に見降ろされカエデはちぢこまった。

「な、なんか変かな・・・私?」

「ああ」

即答され、カエデはうなだれた。




今日は、舞を披露する本番の日。

天皇の親族も来るということで、女官たちが気合をいれて

おめかしをしてくれたのだが、ヒタギの反応はすこぶる微妙だ。

いや、むしろカエデの姿を見るなり、ものすごく不機嫌になった。

せめて、自分の姿のなにがいけないのかだけでも聞いておこうと

カエデは顔を上げた。

「どこが変なのか教えてくれない?

 今後の参考にするから」

「・・・・・・」

ヒタギの眉間にしわが寄った。

そんなに欠点が多い容貌なのだろうかと、ますます不安な気持ちがつのる。

「・・・まず」

「う、うん」

「おまえのその恰好は、なんだ」

「恰好って・・・舞の衣装のこと?」

「・・・・・・」

沈黙は肯定ということだろう。

言われるままに、己の姿を見下ろしてみた。

今、身に着けているのは、影水月から持ってきたカエデの舞用の巫女装束だ。

胸当てと、右腕には長い紺の籠手。

下は、動きやすさを考慮した、太ももが大胆に覗くくくり袴だ。

カエデの舞は、基本、愛刀の三日月刀を使うので、普通の巫女装束とは違うのだ。

この巫女装束なら、そのまま剣術の修業もできたし、

舞の稽古もできた。

何よりも動きやすかったので、影水月にいたころはよくこれを身に着けていたのだが・・・。

「なんか・・・だめ?」

「ありえないな」

一刀両断され、カエデは再びがっくりと肩をおとした。

「まず、その露出の多さがありえん。

 なぜ、足首どころかふとももやら、へそやらを、他の男に見せる必要がある。

 おまえ、おれ以外の男を誘惑して楽しいか?」

「・・・ゆ、ゆうわくっ!?

 ししし、してないしてない!!」

首をぶんぶん振っても、ヒタギの表情は変わらない。

むしろ、ため息をついた。

「・・・自覚なしか。

 たちが悪いな」

「自覚って何の!?」

「それと、もう一度言うが、おまえに化粧など必要ない。

 ・・・・かわいい顔をなぜ化粧なんかで隠そうとするのか理解できない」

「ひえっ」

天然無自覚の砂糖のかたまり攻撃に、カエデの顔は、一気に赤くなった。

「・・・だいたい、この話におれは反対だったんだ」

「え?

 私が舞うのって、ヒタギが考えた話じゃないの?」

「だれが、すき好んでおまえをほかの男の目にさらすようなまねをするものか。

 兄上の提案だ。

 そうでなければ、断っている」

「へ、へえ・・・」

「おまえがおれのものだと、みせびらかしたい気持ちはあるが、

 おまえのかわいさはおれだけのものにしていたい。

 ・・・悪いか?」

「いや・・・別に・・・」

それを言うので精いっぱいだった。

かわいいかわいいと連呼されて、顔が熱い。

「・・・決まってしまったことは、仕方がない。

 とりあえず、舞が終わったら、お前は屋敷の奥にいろ。

 他の男が襲うようなことはないだろう」

それだけ言うと、ヒタギはくるりと背をむけ歩き出してしまった。