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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.93 )
- 日時: 2013/04/04 23:50
- 名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)
*しゃん
しゃらん
鈴の音に合わせて、カエデはゆっくりと右足を踏み出した。
しゃんしゃん
しゃらららんしゃんしゃん
少しずつ早くなる鈴の調べに合わせて、カエデの動きも素早くなっていく。
はじめはゆるやかだったのが、徐々に速く。
三日月刀を振りかざし、
ときに凛として。
ときに軽やかに。
穏やかな風がカエデの長い髪をなびかせる。
しゃん・・・
最後に一度、左袖を風に舞わせると、カエデは静かに動きを止めた。
後に残ったのは、沈黙。
カエデはゆっくりと顔を上げた。
静かだ。
静かすぎる。
まるで世界から音がなくなったかのように、なんの音もしない。
周りの人々からの反応が全くないので、だんだん不安になってきた。
後ろを振り返って、遠くにいるヒタギの顔を見てみたが、
ここからでも彼が無表情だとはっきり見えた。
(だから、なんで怒っているのよ!?)
とりあえず、一礼だけするとカエデは逃げるようにその場を離れた。
足をはやめて、ヒタギに言われた通り、屋敷の奥にある
四鬼ノ宮に来た初日に眠っていた部屋を目指す。
半分走るようにして長い廊下を通過する。
舞は失敗したのだと、頭の遠くで思った。
まったく反応のなかった人々。
無表情のヒタギ。
それが頭の中をぐるぐる回る。
目の端に涙がにじんできたとき、カエデはようやく目的の部屋の前にたどり着いた。
その前にある庭には、これでもかというほど藤の花が咲き乱れている。
カエデは足を止めてそれに見入っていたが、ふと表情を変えた。
咲き乱れる美しい花々の前に見かけない人影があることに気づいたのだ。
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