コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 俺の式神がどうみてもエビフライなんだが ( No.49 )
日時: 2013/11/30 11:18
名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: .HsHtyLH)

とある寒い冬の日のこと。
俺は起こされると同時に白装束に着替えさせられた。

「何故こんな早朝に俺を起こすんだ?」
「仕方無いじゃないですか。源蔵さんに呼ばれたんですから」
「だからといってこの寒いなか外に行かされるのは不服だが……」
「『結界が決壊しそうじゃ。この町が血塊まみれになる前に直すぞ』だそうです」

エビフライがじいさんの声真似をしながら言った。
結界結界うるさいな……。

「だが、ともかく俺は行かな」「瞬間転移!」

拒否し終わる間もなく、俺は極寒の地に連れて行かれた。
そこには年だというのに元気に結界張ってる源蔵のじいさんと、
まだ若いというのにヒイヒイ言いながら作業してる浩介他10人ほどの陰陽師がいた。

「おお、照明ではないか。待っていたぞ」
じいさんが白装束姿で迎えてくれる。
今が早朝だから良いものの、真昼間にこの姿でいたら確実に職質されそうだ。

「おいじいさん。何で俺をこんな朝早くに呼んだ。寒いじゃねーか」
それを聞いてじいさんが顔を赤らめながら答える。
「いやあ……、ムシャクシャしてのう……」
「ムシャクシャしたら結界の修復するのかよ!犯罪犯したみたいに言うなよ!」
「わしは自分のしたこと認め、出頭することにする。後は頼んだぞ」
「だから何で犯人みたいなこと言ってんだよ!」

そんな風にギャアギャア騒いでいると、痺れを切らした陰陽師の一人が言った。
「お二人さん、仕事してくださいね」
「———はい。」

言った陰陽師——赤い髪留めを付けた15歳前後ぐらいであろう女子はにこりと笑った。
口調は優しかったが、その言葉には明らかに怒りと殺意が練りこまれていた。
もちろん俺達は殺されたくないわけで。

「えーとおじいさん、仕事ってどんなことをすればいいのかなー」
「それはねー結界が破れたところを直せばいいんだよー」
俺が棒読みで聞くと、じいさんも棒読みで返す。
俺もじいさんの声もあきらかに震えている。
横からの目線の圧力のせいで。
よし、仕事、やろう。



Re: 俺の式神がどうみてもエビフライなんだが ( No.50 )
日時: 2013/12/01 19:16
名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: .HsHtyLH)

「じいさん、あの恐ろしいお方は誰なんだ?」
じいさんがちょうど隣へ来たとき、俺は横目でさっきの女子を示しながら、小声で言った。
「彼女は姫城夏海(ヒメジョウ ナツミ)じゃ。
 うちの陰陽師の精鋭の一人なんじゃが……。最近怖くてのう……」

じいさんの声が明らかに震えている。
だが、後ろにいるエビフライとか言う悪魔に比べたら数段マシだと思うぞ。
デスピ○ロに低レベルで挑むのと超軽装で高難易度ダンジョン挑むのの怖さの違いぐらい違うぞ。
前者は腕がいいとか運とか関係なくやられるが、後者はかなりのゲーマーならどうにかなるしな。

「ご主人、手が止まってますよ」
「なんだよエビフライ。俺は結界張るのは得意じゃないんだよ。
 お前も後ろで見てないで手伝えよ」
「別にいいですけど、私が結界を張ってもフライの衣しか残りませんよ」
「そんな便利な能力あるなら全国の主婦の皆さんに役立てて来いよ!」
「しかしですね、衣を被せるだけではフライとは言えないんじゃないんですか?」
「真面目か!いきなりまともなこと……」

ザクッ!俺はいきなり横からの目線の刃に貫かれた。
く、眼力マスターもとい姫城夏海か。やはりあっちもあっちで悪魔だな、うん。







俺はその後、6時まで延々と働かされ、霊力はほぼ使い果たし切っていた。
そんな俺を見て、じいさんが袖口から何かを取り出した。
「ほれ、コーラ1.5リットルじゃ。これで霊力を蓄えるがよい」

え?え?コーラ?コーラだ……と!?
速攻で蓋を開け、一気に飲み干す。と、同時に力が溜まっていく。
コーラの絶妙な味わいと炭酸の刺激が最高に久しぶりに俺のもとに訪れる。
最近禁断症状が嫌というほど出ていたからな。これはうれしい。

だんだん力を取り戻していく俺を見ながら、じいさんが口を開いた。
「さあ、霊力も戻ったことじゃし、仕事をまたしてもらうかの」
え? は? ちょっと待て。

「今度は町外れの工場跡の結界の修復じゃ。今にも、凶悪な妖怪が出現しそうなのでな」
「いやいやいや、あんだけ働いたんだからそれは明日でもいいだろ!」
「む?言っているそばから工場跡地に強い妖気が……」

——無視ですか。ずいぶんとひどいぞじいさん。
ん?でもそれどころじゃ無いような……。

「——竹林からもじゃ。それに町中央の河川からもじゃと!?
 馬鹿な、あそこは守り神が守っているはずでは!?」

嫌な気配が町中を覆っていることが俺にもわかる。
しかも、同じタイミングで妖怪が出現するとは……。

「ご主人行きますよ。これはただことじゃありません」
エビフライが俺を引っ張っていく。
「行くってどこへ?」
「決まってます。一番妖気の強い、工場跡地へです」



Re: 俺の式神がどうみてもエビフライなんだが ( No.51 )
日時: 2013/12/02 20:20
名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: .HsHtyLH)

「おいエビフライ。俺達だけでこんな危険なとこに来ていいのか?」
エビフライに瞬間転移で強制的に工場跡地に連れてこられた。
じいさんたちも、大丈夫だなと根拠の無い過信をして、別の場所に行ってしまった。
そして、ここには明らかに凶悪な妖気が漂っている。
これはとんでもなく危ない状況だな、本当に。

「大丈夫です。私を誰だと思ってるんですか」
「ただの揚げ物料理の一種じゃないのか?」
「それはご主人の付けたあだ名でしょう」

エビフライが大きくため息をつく。
いやでも、どうみてもエビフライだし。
あんな特徴的な衣を着てて、赤い海老の尻尾が付いてる奴が他にいるか?
そもそもだな……。

「グッドモーニング♪ 君達じゃないか♪ ひさしぶりだね♪」
工場の壁からぬらりと白い物が出てきた。それにこの声は……。
「おい、ナルシ雑巾。久しぶりだな。そして空気読め」
「本当ですよ。懲りませんね、全く」
「フフ、舐めるのもその辺にした方がいいよ♪ Rotten Egg♪」

なんか英語が上達してるな。どこで習ったんだか。
そしてこの臭い……どうやら腐った卵と言いたいらしいな。
てかなんかとんでもなく臭い。生ゴミとかそういう次元じゃないような。
バッ! 俺は急にエビフライに口を抑えられた。

「硫化水素です。腐卵臭のする有毒な気体です。とりあえずは口を塞ぎましたが、
 皮膚や目からも侵入するので、結界を張って身を守ってください!」

なるほど、結界か。命の危険を感じたら出るはずだが……。
——出ないな。こうなったらヤバイヤバイと念じるしかないな。
ヤバイ死にそうヤバイ死ぬ死ぬ死ぬヤバイ本当に息苦しく……。
ブオン! やっと結界が出た。
なんだこの不便な結界。自分の意思で出ないと怖いじゃねーか。
これはアレか? 普段コーラばかり飲んで身体を大切にしない俺への
ドッキリか?
もうドッキリってレベルじゃないぞ。ドッキリ超えてポックリ逝きそうだったぞ!?

「どうやらなかなかやるようだね♪ ならこれはどうかな?Come on!」
雑巾が一声掛けると辺りから似たような異臭のするゴミがたくさん集まってきた。
人がゴミのようだ!——じゃねーけど、本当にワラワラ集まってくる。

「さあみんな♪ Togatherでかかるんだ!」

空き缶。ゴミ袋。粗大ゴミ。生ゴミ。ありとあらゆるゴミが波のように押し寄せてくる。
もちろん逃げ場なんて無い。それにこの数じゃ結界も破られるだろう。
結界を張っているというのに、異臭は強くなっていく。
もしかすると、もう結界が破られるという予兆なのかもしれない。
エビフライも諦めたのか俯いている。

軍勢が俺達の半径1mまで近づいとき、
ドーン! 爆音が起こった。もう、ダメだ。俺は目を閉じた。
あと1万杯はコーラが飲みたかった……。
ん? なんともないぞ。悪臭もいつのまにか消えている。
いったい何が……。

恐る恐る目を開けてみると、そこには塵と化したゴミの山とその上で浮かんでいるエビフライがいた。
「私とそのご主人に挑もうなんていい度胸をしてますねぇ」
エビフライが残酷な笑みを浮かべている。
敵に回すと怖いタイプだな、うん。

「お前……、その力……、天神の右腕だな……」
塵の山の中の死にかけのゴミはそう呟いて動かなくなった。
『天神の右腕』その言葉の意味は今の俺にはわからなかった。

「さて、雑巾のリーダーさん?そろそろあなたもこの山の中に入りませんか?」
「ののの、ノーサンキューだよ!グッドバイ!」
雑巾はかなり焦った様子で逃げ出した。
まあ、こんな悪魔に目を付けられたら、そうなるだろうな。
でもまあ、エビフライもそれを許さないわけで、尻尾を一振り、強大な衝撃波を発生させた。
「グハア!マ、マイホーム……」
衝撃波が命中し、雑巾は地面に落ちた。まだ根に持ってたのかよ。

「さて、他の皆さんのところにもいきましょうか」
そう言うエビフライに俺は恐怖を感じていた。
こいつ、ドラ○エのラスボスどころの強さじゃないぞ、と。



Re: 俺の式神がどうみてもエビフライなんだが ( No.52 )
日時: 2013/12/04 21:42
名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: .HsHtyLH)

俺達が川原に着くと、そこにはじいさんと姫城がいた。
「じいさん、様子はどうなんだ?」
それを聞いて、じいさんは首を傾げながら答えた。
「それが、わしらも来たばかりでの。他の者にも意思疎通術が伝わらんしの」
「何か他の妖怪の比じゃないレベルの妖気も感じられるし」
姫城夏海も心配そうに呟いた。説教以外を聞いたの初めてだなそういや。
だが、今の状況がとんでもなく危険なのは明らかだ。
空は昼間だというのに、紫がかった暗雲で覆われている。
そして、朝だというのに人一人歩いている気配がない。
ただただ、カラスが警告するように鳴いているばかりだ。

——ウオオオーン。赤子の声にも、獣の声にも、鐘を叩く音にも聞こえる音が空中に響き渡った。
その声を聞くと身体の力が抜けるような錯覚に襲われる。
カラスはさらに声を増し、まるで嵐でも来ることを予告しているようだ。
空を覆う暗雲は蛇のように歪んだ動きをし始めた。

「これは、思っていたよりも悪い事態のようじゃ。
 まさかわしが生きている間にあ奴に出会うことになろうとは……」

——ウオオオーン。二回目だ。その声は寂しさを感じさせる。
そして、カラス達は合図が来たというように一斉に飛び立ち、
不気味な空へ向かっていく。
カラスが雲の中に消えたとき、またあの鳴き声が響きわたった。
ウオオオーン! 空気が震えている。
そして、雲の中で巨大な何かが動めきだした。
その巨大な物体は徐徐に姿を現していった。
それは獅子の顔を持ち、胴体は虎で、尾は蛇という異形の妖怪だった。
言うなら、ギリシャ神話のキメラのような……。

ヌエじゃ」
じいさんが我に返ったように呟く。
「平安時代末期に京に現れた妖怪で、人の生気を鳴き声によって吸い取る能力を持っておる。
 とある武士が矢を放って地上に落とした上で、刀でとどめを刺したが、
 相手は強大な妖怪じゃ。いつか蘇るとは思っていたが、まさか今とは……」

Re: 俺の式神がどうみてもエビフライなんだが ( No.53 )
日時: 2013/12/28 23:45
名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: NINBOsI.)

鵺は暗雲の真下の虚空をかき混ぜるように動き回っている。
その動きを見ていると、結界を張っているというのに、身体に力が入らなくなる。
俺はあいつを直視しないことにし、目をそらした。

「い、いったい、これはどういう状況なの……?」
姫城が困惑しながら呟いた。

「おそらく、妖怪を大量に出現させたのも、あいつの仕業じゃろう。
 きっと、自分の復活をわしらに邪魔させないためじゃ」

しばらく鵺は動き回っていたが、しだいに遅くなり、空中に静止した。
力が十分にたまった、というように鵺が空を駆け降りてくる。
空気が怯えるように震えている。
鵺が地上に降り立った。その眼からは威圧感を放っている。

「さて、そろそろあいつにクレーム付けにいくかの。
 おぬしらもこのままでは終われないじゃろう?」
「おう」「はい」「ええ」
俺達は口々に返事した。
不思議と鵺には恐怖心が湧いてこなかった。
陰陽師は皆そういう者なのかも知れない。

「愚かな人間共よ、我に敵うと思っているのか」
頭の中に明らかに人間ではない声が響いた。どうやら鵺の声のようだ。

「ああ、そうじゃ。少なくともわしはお前には勝てる。
 じゃから、さっさとこの町へ危害を加えるのをやめるんじゃ」

それを聞いて、鵺が笑い出した。
「グハハハハ、勝てる……勝てるか……、
 確かに一対一ではやられる。だが、これならどうだ?
 『死せしあやかしどもよ、蘇りて怨みをはらせ』」
鵺がそう言った瞬間、地面から無数の妖怪たちが現れた。
さっきのゴミとは比べ物にならないほどの数だ。
だが、そいつらは死んだ魚の目をしていた。
ナルシ雑巾やみぞれのような、自分の意思を持っているような兆候が見られない。
どうやら、妖怪のゾンビのようなもののようだ。

「しかし……なんて数じゃ。さすがにこれではわしも倒せん」
「俺達を忘れるなよ、じいさん」
「私もどうにかするから」
「そうですよ、ご主人はともかく、私と姫城さんがいれば大丈夫ですよ」
さりげなくひどいぞエビフライ。

「粋がるのもそこまでだ。者共、かかれ———ッ」
鵺が口から光線を吐いた。光線は俺のそばの地面を焼いた。
それが合図だったのだろうか。一斉に俺達に妖怪が襲ってくる。

首の無い馬が俺に突撃してくる。が、エビフライの迎撃にやられて倒れた。
今度は小さな赤鬼が棍棒をふりまわしてくる。俺はそいつに王水をぶっかけた。
その後も何度も妖怪たちが襲ってきた。
その度に瞬殺したが、俺はあまりの数に疲れきっていた。

「——妙ですね」
エビフライが妖怪を倒しながら呟く。
「この妖怪たち、ご主人を狙っているようです」
確かに、さっきからじいさんやエビフライには見向きもせず、
俺にだけ攻撃してくる。

「しかしまあ、この数は面倒ですね。さっさと倒しましょうか。
 皆さん、結界を張っていてください」
エビフライはそう言うとまた巨大な爆発を起こした。
一瞬で妖怪達は灰になった。鵺よりこっちの方が明らかに怖いんだが。

「鵺さん、無駄な抵抗はやめてください」
「グハハ、この術の力はそんなものではない」

また地面からさらに数を増した妖怪達が顔を出す。
これじゃあきりが無い。

「さっさと諦めることだ。お前らが我に勝つのは不可能だ」
不可能、不可能か。俺にはなぜか不可能だとは思えなかった。
そして、それを裏付けるように鵺を倒す手段が脳裏に浮かんでくる。
まるで、何かを思い出すように。

「じいさん、コーラの0カロリーはあるか?」
「一応もっとるが……。いったい何に使うんじゃ?」
俺はじいさんから0コーラをうけとり、飲み干した。
身体に力が満ち溢れる。普段とは比べ物にならない程のだ。
その代わり、負荷がひどいから、昔から飲まないことにしていたが、仕方ない。

「エビフライ、悪いが足止めしておいてくれ」
「任せてください。何か作戦があるんでしょう?」

俺は鵺の方を向き、指で鵺を指した。
「おい鵺、さっき不可能って言ったな? 
 その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」