コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 俺の式神がどうみてもエビフライなんだが ( No.72 )
日時: 2014/05/01 20:30
名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: WjRoMaRn)

——というわけで、俺はこの断崖絶壁に登らせれることになった。
周りの竹林、小川、そして真ん中にいきなりこの高い崖だ。
明らかに人為的に作られたものにしか見えない。
もちろん妖怪や守り神も含めて。

とはいえ、崖を登るだけならエビフライの鬼畜訓練日課表に土曜日の訓練として書いてある。
苦しいことは苦しいが、慣れているためまだ耐えられる。
ただ、この岩山、謎の苔らしき異物が全面を覆い尽くしている。
その苔は苔と呼ぶにはあまりにもぬるぬるし過ぎている。
もう「陸のワカメ」と呼びたいくらいだ。


——足が滑らない術とかないのかよ!
足場を確認しながら、心の中で叫んだ。が、とうのワカメ君は絶賛ぬるぬる中だ。
容赦なく登る俺の靴を滑らせようとする。

バナナの皮って人を滑らせにくーい。そう思うそこのあなた!
この「陸上ワカメ」なら、驚くほど簡単に滑らせられます!!
それが20個と本物のワカメも付いて、お値段なんと、19800円!!

——どこぞのCMもとい雑念が頭をよぎった。どうでもいいことだが。
このワカメも侵入者に登らせないようにするためのものなのかもしれない。
こんなワカメみたいなのが陸上に自然に生育できるはずが無いからな。
と、なるとやはりこの崖誰かが作ったものなのか。

とか考えているうちに山頂までもう少しだ。セキュリティ薄いな。
山頂に手をかけて登ろうとしたとき、俺の目が捉えたのは、藁葺きの小屋だった。

そして、その直後俺は恐ろしいこと気付く。驚きと喜びのあまり足を踏み外していた。
大事な事だからもう一度言う、足を踏み外した。
身体中を寒気が走る。それと同時に俺はまっさかさま。
なんかエビフライや母さん父さん、太一の顔が浮かぶ。
それから10秒も経たないうちに、俺は体中を地面に打ちつけられた。
が、結界が自動的に出たおかげで死にはしなかったようだ。

足が痛い。あまりにも高かったため、結界でも完全には無力化できなかったようだ。
血はでていないが、脚がじんじんと痛みを訴える。どうやら骨折したらしい。

「ご主人、大丈夫ですか!?」
エビフライが心配そうに飛んでくる。
大丈夫だ、なんて決して言えやしなかった。

「大丈夫?」
だから大丈夫じゃねえって。そう言おうとしたが、声が出なかった。
そりゃ声も出ない。見知らぬ緑の髪の青年が俺の前に急に現れたんだからな。

Re: 俺の式神がどうみてもエビフライなんだが ( No.73 )
日時: 2014/05/25 10:15
名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: WjRoMaRn)

「あー、このコケで足を滑らせちゃったのかー。
 面白いから放置してたけど、事故が起こるんじゃ撤去したがいいかな? でも待てよ———」

その青年は独り言をしきりに呟いていたが、俺の呻き声で思い出したかのようにこっちを向きなおした。

「あー、ごめんごめん。とりあえず応急処置しとくからこれで許してよ」

そいつは懐から瓢箪のようなものと包帯を取り出し、包帯に瓢箪から緑の液体を少し付けた。
そして、俺の腕に包帯を巻き始めた。
そこで、エビフライが口を開いた。

「いきなり現れ、独り言を話始めたかと思えば、主人の応急処置……。
 あなたはいったい何者なんですか?」
「そうか、名乗ってなかったっけ。僕は空枝ノソラエダノモリ。ここを守ってる。
 言い難いだろうから、ソラで構わないよ」
「守り神さんですか。なら、この森からの出口も知ってらっしゃいますよね?
 ご存知の通り主人が手負いで」

珍しくエビフライが優しいな。俺が怪我してるからか?
普段は三途の川を垣間見れる修行をさせてくるのにな。
——って何で俺は骨折してるのにこんなに冷静に思考できているんだ?

気がつくと、腕から痛みは消え去っていた。痛み止め薬か何かを塗ったのだろう。

「あー、出口か。それなら守り神の権限で出口まで連れてってあげるよ」
「守り神の権限?」
いきなり起き上がった俺を見て、エビフライは少し驚いたが、ソラは依然のんびりとした口調で答えた。

「この森、ある範囲内に入っちゃうと抜けられなくなるんだ。おまけに移動系の術も使えない。
 守り神など権限を持った者以外はね」
「じゃあ俺たちは帰れるんだな?」
「ただ、ちょっとした手続きが必要なんだよ。全く面倒なシステムだよね」

ソラは苦笑しながら言い、岩山を指差して付け加えた。

「で、手続きをこの上の僕の家でやらなきゃならないんだ。
 ちょっと移動するけど、いいよね?」

良いという前に俺は空間を切り裂くあの音とともに、俺は岩山の上に飛ばされた。
と、同時にソラの叫び声が聞こえた。
そして、何かに押し潰された、家としてもう機能しない藁の残骸が目に入った。

「その、とりあえずご愁傷様」
「ご主人、こんなときにネタに走らないでください。
 家が壊れたということは、私たちが帰れないかもしれないんですよ?」
「え、今何て言った?」

最悪な言葉が聞こえた気がしたが気のせいかもしれない。そうだ、きっと気のせいだ。
エビフライは落ち着いた調子で繰り返す。
「私たちが家に帰れないかも知れないんですよ」
「なん、だと?」














Re: 俺の式神がどうみてもエビフライなんだが ( No.74 )
日時: 2014/06/10 19:49
名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: WjRoMaRn)

「そもそもああいう手続き的なことは正しい場所と環境で行われなければならないんですよ」

エビフライがこんなことも分からないんですかとばかりに繰り返す。

「つまり?」
「事務所とその備品を壊された状況では許可を貰うことすらできないということです。
 まあ、ずっと壊されたままで置いておくなんてことはないでしょうけど」
エビフライは横目でソラを示す。
ソラはというと、さっきまで打ちひしがれていたが、急にふらりと起き上がったかと思うと、
狂気に染まった目で術式を展開し始めた。

「大事な研究素材を……、天空ゴケを……、自己練丹の水仙を……、絶対に許さない……。
 水より出でし五穀の同胞よ、標となりて我が敵を示せ!!」

ソラがそう唱えると、地面に書かれた術式が輝きだし、巨大な白い塊が術式のすぐ上の空中に現れた。
浮かんでいるソレは、おそらく……いや本当に推測でしかないが、豆腐にしか見えない。
豆腐特有のぷるぷる感、色、濡れ具合、全てが豆腐だ。神々しく輝きながら宙に浮いていることを除けば。

豆腐が何かを探すように直線的に動き始めた。
そして、空を飛び回ったあと、森の一角の上空で動きを止めた。

「こんな術見たことも聞いたこともありませんが……?」
エビフライが首を傾げながら呟いた。
「ま、まあ帰れたらいいんじゃないか?」
そもそも、液体を召喚する俺の術も十分摩訶不思議で意味分からないしな。
ドレッシングとかタルタルソースを呼べる陰陽師の秘術なんて聞いたこともない。


「あそこか……。許さない……。毎日のご飯にワサビを大量に混入させてやる……! 
 豆腐を家の中に山のように入れてやる……!」

ソラは狂気じみた声で繰り返すが、言ってることが全く持って怖くない。
それともエビフライの拷問のせいで感覚が麻痺してるかだな。

ソラが転位系の術らしきものを詠唱する。
「五穀の神の名において、早急に我を転送せよ!」

そして、ソラは目の前から消える——かと思ったが、空間を裂く音とともに景色が一瞬にして変わった。
——どうやら俺たちも飛ばされたようだ。

「おそらく、さっき転位したときに私たちへの指定を解くのを忘れていたんでしょう」
エビフライが淡々と解説する。こいつ、俺がなんでも分かってないかのように……!



——静か過ぎる。今気がついたが、この場の雰囲気が妙だ。
カサカサと音を立てていた木々も、煩いほどさえずっていた鳥の声も聞こえない。
いくら夕暮れ時だとしても、カラスの鳴く声ぐらい聞こえるはずだというのにだ。
——陰気。その言葉が異常な程当てはまる。
エビフライもそれに気づき、俺と顔を見合わせた。

そんな俺たちの様子を気に留めず、ソラは周囲を見回していたが、ついに犯人らしきものを見つけ、叫んだ。

「僕の研究素材とか秘薬とか本……あ、それと事務所と備品を壊したのはお前か!!」
私物メインかよ……。大丈夫かこの守り神。

ソラが指差す場所を見ると、小さな一本足、一つ目の赤鬼が木に何食わぬ顔で寄りかかっている。
小さな子供ぐらいの大きさだというのに、赤い瞳から感じられる悪意は底知れない。
俺がこの場の邪気の根源がこいつであることに気づくまでにさほど時間はかからなかった。

赤鬼は、ソラの声を聞いて薄ら笑いを浮かべながら、ソラの方へ飛び跳ねながら近寄った。

「——ああそうだ。さすが五穀の神の奉仕種族だねぇ。こんな早く見つけるとは……」
と、言ったところで赤鬼は俺の方に向きなおし、邪気の篭った声で続けた。

「大事な大事な客人も連れてきてしまったようだがね」
赤鬼がにやりと笑みを浮かべると、ソラが我に返ったかのように俺たちを見て、叫んだ。

「早く逃げて! こいつは危険だ!」
「おおっと、そんなことするとこいつの命が危ないぜ?」
赤鬼は木の裏からぼろぼろの服の少女を引きずり出し、言った。
そいつは眠ってはいるものの、さっき会った虫を食べていた少女だった。

ソラは少女の姿に顔を引きつらせた。
「ウルシ!!!」
絶叫が森の中に響き渡った。