コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 不良物語 ( No.13 )
日時: 2013/01/15 14:07
名前: しょめ (ID: DSoXLpvQ)
参照: http://syome

「どこから聞いたんだって顔だな」
ふいに翼がこちらの心を読んだように言った。
嘲笑う。
「この街の裏にいる情報屋、如月創也。それだけ言っておく」
そのまま翼は大鬼に背を向け、小屋から出て行った。

「あぁ、支配するってのは嘘だから」
惇都が笑いながら言った。
「じゃあ何しに……」
「秘密」
大鬼の言葉を遮り、惇都は言う。
そして彼は翼を追って小屋を出る。
その後に続いて雅。
どこまで余裕なのか。
惇都は「じゃーね」とこちらに手を振って消えていった。
大鬼は一人嘆息した。

ここで頭の整理をしよう。
一つ目。
この街の裏とはどこなのか。
二つ目。
如月創也とはどんな人物なのか。
また、翼達との関係は?
三つ目。
一鬼の行方。
これは後でも大丈夫か。
あいつのことだ。どうせすぐにひょっこり帰ってくる。
四つ目。
この後の沙鬼をどうするか。
多分、かなり心に傷を負っている。
大鬼は”慰め”というのが苦手だった。
人嫌いな大鬼。
近寄ってくる人がいないので、接し方が分からないのだ。

——くそっ、イライラする。

大鬼は横目で沙鬼を見た。
その場に呆然と立ち尽くしている沙鬼。
大鬼の視線には気づいていないようだ。
だから。
だから、大鬼は彼女に声を掛けた。

「おい、沙鬼」
ふいに声を掛けられ、肩を大きくビクつかせる沙鬼。
しかし、それは失敗だった。
振り向いた彼女を見て、大鬼は声が出なかった。
大鬼の顔を見る彼女の目には、”生”が映っていなかったからだ。
——こんな時、どうすれば……!
大鬼の頭の中でふいに起こった混乱。
頭のなかで交差し、交錯し、絡まりあう言葉。
しかし、それらは絡まってばかりで、何一つ繋がらなかった。

「お前は帰るのか?」
少し強くなってしまった口調。
しかしこれは、彼女への怒りではなかった。
それは、大切な人を、数少ない分かり合える親友への態度。
どうにもならなく、歯がゆい自分に苛立ちを覚えたのだ。
自分への償い。
大鬼が失った代償——。

「あ……あたし、家に帰るから……」
とても弱々しくてか細い声。
耳元で飛ぶ蚊が起こす跳ねの音よりも弱々しい声。
大鬼はどうしようもなくなった。
否、どうしようもできなくなってしまった。
沙鬼を傷つけてしまった。
心の深い傷を抉ってしまった。
——俺は……、一体何がしたいんだ。
自問自答。
自問自答。
繰り返し、繰り返される言葉。
言霊、言の葉。

「じゃ、俺も帰る。じゃな」
大鬼はそう言って駆け足に小屋から出た。
どうして駆け足になったのか。
大鬼には分からなかった。
もしかしたら、あの場から逃げたかったのかもしれない。
沙鬼から離れたかったのかもしれない。
沙鬼から遠ざかりたかったのかもしれない。
理由なんていろいろ付く。
しかし、大鬼にはどれが答えで、どれが間違いかなんて分からなかった。

「……っ、クソが……」
強く歯軋りをして、大鬼は学校を後にした。

頭の中に思い浮かんだ疑問のうち、一つが解決。
「残りは3つか……」
低く呟いて、彼は歩く。
歩く歩く歩く。
心にずっと晴れない分厚い雲のような不安を感じながら。