コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【参照200突破!】モノクロ:コード【コメント大募集中♪】 ( No.47 )
- 日時: 2013/02/02 17:42
- 名前: しょめ (ID: s1qwLtf7)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
「おじゃましましたーっ!」
瑠璃が機嫌よく上総さんの部屋から出る。ようやく構ってもらえたのがよほど嬉しいのか、スキップをしている。彼女の周辺に音符の何かが見えたが、それはきっと幻影だろう。
「お、おじゃましました」
僕も少し恐縮さながら部屋を出る。
「また来てくださいねぇ」
扉の陰からヒョッコリと顔を出している上総さんが手を振っている。紀伊さんが気に入るのも納得できる。
「そうそう、さっきの電話についてですけどねっ」
長い長い廊下の途中。瑠璃は歩きながら僕に言った。
「多分もう設置されているかと思いますよ、明人さんの電話っ。部屋番号とかは書いてあるので心配はないと思いますっ! 何かあったら電話してくださいねっ! あ、そうそうっ。ちなみに管理人からの怪異倒しの依頼も電話で来ますのでっ」
スキップをしているので声の強弱のアップダウンが激しい。
電話、か。僕はふと思いふける。思えばこの変なことに巻き込まれてから僕の過去に何かと関わっているワードがたくさんある。偶然か、あるいは必然か。そんなもの分かるわけないが。
電話なんて滅多に使わなかった。自分の携帯は持ったことない。自宅の電話も自分からかけることなんて滅多にない。それこそ死んでしまったという『母親』ぐらいだけだった。かかってくる相手もない。かかってくるといえば、間違い電話か詐欺電話ぐらい。双方の理由は簡単だ。先ほども思いふけたように、ぼくには友達がいないから。ただそれだけだった。
ふと気づく。
先方をスキップで駆けていた瑠璃が歩くのをやめている。疲れたのだろうか。僕が声を出そうとした瞬間、瑠璃の声が聞こえた。
「明人さん、分かりますよ。ここにいる皆そうなんです。もちろん私も。何の因果か分かりませんが、過去と繋がっているんです。今皆が笑っているのはそんな不安を掻き乱そうとしているだけなんです。所詮私たちは身寄りのない”かわいそう”な子供なのですよ。だから誰が死んでも悲しまない。悲しむのは同じコードだけなんです。思いふけるのは部屋に戻ってからのほうがいいです。皆も、一人のときはこうなのです」
振り向かずに彼女はこんなことを言う。顔を見せずに、隠すようにして言う。表情を悟られたくないように——言う。しんみりとした、弱い声。いつもの弾けている声じゃない。弱気な、それこそ瑠璃らしくもないしおれた声だった。
声がかけられない。
「……なーっんてっ! 嘘に決まっているじゃないですかぁっ!」
突如、弾けた声。瑠璃独特の明るい声だ。でも、違う。先ほど月夜の部屋に訪問しに行ったときにもあった、早口で焦った声。
——嘘だ。僕は確信する。かけられる言葉が見つからない。「嘘だ」とも「そうなんだ」とも言えない。何も言えない。
「ささ、次は姉御の部屋ですよっ! 明人さん、姉御が待ってます、急ぎましょうっ!」
そう言って最後まで彼女は振り向かずにスキップをする。
スキップの途中。少しだけ彼女の横顔から見えたのは。
——小さく光る涙だった。