コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 【 After the rain* 】 ( No.19 )
- 日時: 2013/02/02 15:10
- 名前: 〒... しあち。 ◆InzVIXj7Ds (ID: Ti.DGgQd)
※ 雰囲気ちょっと注意
「雨、止まないわね」
「寧ろ本降りになってきてないかい?」
足りない食材を買いにスーパーへやってきた。
買い終わり、スーパーからでて少し歩いたその時、ぽつぽつと雨が降ってきた。
直ぐに止むだろうと、私達は近くのこじんまりとした店の前で雨が止むのを待っていた。
しかし雨は一向に止む気配が無い。
小さな店の前でいい年した大人二人が縮こまっている。
傍から見ればさぞかし滑稽な画なのだろう。
幸いこの店は一本奥の道を入った場所にあり、人気は一切無い。
「まさか降ってくるなんてね」
「ホントだねぇ。おいちゃんすっかりぐしょぐしょだよ」
ふと、隣にいる頭一個分身長差のある彼を横目で見た。
水気を帯びた髪がべったりと額に張り付いているのを、鬱陶しそうに払う。
普段は無造作に立てている髪も、今は雨と湿気で随分落ち着いている。
髪から滴り落ちる水滴が妙に……。
自分の頬に熱が集まるのを感じた。
横目で、とは言え見詰め過ぎたのか、視線を感じ取った彼は私の方を向いた。
「さっきから熱の籠もった目で見つめちゃって。おいちゃん照れるよ」
「あら、そんなに熱籠もってた? いやだわ隠し切れてなかったのね」
我ながら上手い返しだと思う。無意識に行ってしまう、自分を隠そうとする照れ隠し。
よく友人に直した方が良いと言われていたっけ。
「私の熱の籠もった視線はお嫌い?」
「いんや、まさか。おいちゃん嬉し過ぎるくらいだよ。
……ただあんま見つめられると、ねぇ、おいちゃんちょっとキツいかなぁって」
「そんな目つき悪いかしら」
「……そうじゃなくてねぇ」
こんな歯切れが悪い彼は初めてだ。それともう一つ。彼は一向に私と目を合わせない。
私は雨に濡れてよれよれになったシャツを引っ張った。
「ねえ雅之さん、さっきから目を合わせてくれないけれど、どうしたの?」
体調でも悪くなったのかと心配していると、彼が「……はぁ」とため息をついた。
そして私に視線をやる。やっぱりどこか少し外している。
「自分の姿見てみな。雨に濡れて、凄く色っぽくてやらしいから」
「……え?」
予想だにしていなかった言葉が、雅之さんの口から紡がれた。
思わず間抜けな声を出してしまった私。少し恥ずかしい。
「だからねぇ、あんま見詰めたり見詰められたりするとおいちゃん、変な気分になっちゃうんだよ」
……変な気分って。
「そうなの」
「そ。そうなんだよ。だからね、杏奈ちゃん」
「なら私と同じね」
普段なら余裕たっぷりの彼が、ほんの少し間抜けな顔をしてやっと私の方を向いた。
それと同時に私は雅之さんの胸に右手を添えながら、唇を耳元へと寄せる。
「私も雨に濡れた雅之さんを見て変な気分になってたのよ。色っぽいな、って」
私の言葉にキョトンとしていた雅之さんだったが、「ね?」と言うとハッと我に返った。
「あ、杏奈ちゃん……? この体制、おいちゃんちょっと大変……」
「やだわ私ったら、発情期かしら?」
わざとらしく頬に手を添えて呟く。
雅之さんは調子を取り戻したのか、目を細めた。
「杏奈ちゃんなら大歓迎だねぇ」
「あらありがと」
頬に触れられると、雅之さんの手の温もり。
そっと目をやると、真っ直ぐ私を見る視線と絡んだ。
「杏奈ちゃん、水が滴っててホントえろいよ」
「雅之さんこそ」
互いに密着しながら笑い合う。
「さて、お互いに変な気分になっちゃったんだ、良いかい?」
「待って、ここじゃ嫌よ。帰ってからにしましょ?」
「そんな気にさせといておあずけかい。おいちゃん我慢出来ないんだけどねぇ」
「我慢してよ。帰ったら……ね?」
私の言葉を聞き、にやりと口元が緩んだかと思えば、触れるくらいの優しいキス。
「もうちょっと深いキスしたかったけど、すると止められなくなるからねぇ」
「ええ、ここじゃ嫌だわ」
「だから帰ったら、たっぷりと可愛がってあげるさ」
「ふふっ、楽しみだわ」
いつの間にか雨は止み、綺麗な青色が雲間から覗いていた。
⇒ >>020 あとがき