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Re: ビート・ガールズ! ( No.2 )
日時: 2013/01/17 00:28
名前: 雨月 ◆Dtcgw7lf52 (ID: SnkfRJLh)
参照: prologue






元々、歌うことが嫌いなわけではなかった。
使い古したおもちゃのマイクが押入れの奥に眠っているし、音程は外れまくりだけれど歌っている映像も幾つか残っている。
けれど本気で歌いたい、とそう思ったのは、テレビで流れていた一つの歌がはじまりだった。

何かを訴えかけるようなその曲に心を打たれたのは、丁度その頃両親が離婚したからだったかもしれない。
どちらについていくのかと聞かれたら、母親と答えるつもりだった。
けれどそんなことは聞かれなくて、何も言わず母親は去って行った。
別に、それが悲しかったわけじゃない。寂しい、というのは少しあったかもしれないけれど。
でも2人の口喧嘩をもう聞かなくていいのだと思うと、少し心が軽くなった。

いつもいつも、リビングから聞こえてくる五月蝿い声が嫌でしょうがなかった。
前は仲が良かったはずなのに、と嘆きながら、そんな時は決まってイヤホンで耳を塞いだ。
大音量で曲を流し、布団を頭から被る。
そうしたら両親の声も、周りの音さえもすべて遮断できた。

(ずぅっと、この曲だけ聞こえてればいいのに)

いつも世間の声や両親の声には耳を塞ぎたかったけれど、曲だけは聞いていたかった。
その曲のおかげで生きていたと言っても過言ではない。
情緒不安定だった自分に、勇気を、希望を、喜びを与えてくれたのはその曲だけだった。

そしてのちに、そのことがあったおかげで良い仲間にも出会えるのだけれど————それはまた、別の話。