コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 狼たちと同居中。 ( No.7 )
日時: 2013/01/24 19:56
名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)

      第1章 不幸な主人公

 強い風が吹く中、私は地図の場所へと向かった。ぼろぼろの服はまるで「私は貧乏です」と言っているようだった。…実際そうなのだが。
「…ここ…?」
 たどりついた先は、西洋の広い建物のようだった。
「ほし、くずそう…?」
 そこには、「星屑荘」と書かれていた。

 とりあえず、ここまでの経緯を話したい。
 話は3時間前までさかのぼる—……。


 私の家はすごく貧乏。母は幼い時に病死。父は頼りなく、競馬好きの信用できない男。それでも、なんとかふんばって生きてきた。そんな時、とんでもない不幸が訪れた。
 学校から家へ帰ると、父はいなかった。また競馬へ行ったのかと呆れていた。
「お父さーん、いないのー?」
 居間へ向かうと、机の上に一枚の手紙があった。走り書きしたような汚い字で…、

 —家を出ます。あゆみは強い子だから、一人でも生きていけるよ。
                         父より

「…っあの、馬鹿親父…っ」
 強い子だからとか関係ない。普通子供を見捨てて家を出ていかないだろう。どれだけお金がなくても!
 その時、チャイムが鳴った。おそるおそるドアを開けた。
「白原さんですね。立ち退き強制執行命令が出ています。お嬢さんお一人ですか?」
「……え?」
 はい、一人ですー。

「…何でこんなことに…」
 私は家を追い出され、寒い冬空の下、公園のベンチで考えていた。もちろん、これからどうするべきかを、だ。
「…どうしよう。高校は奨学金扱いだけど…、家がない…」
 涙が出そうになる。何で私はこんなに不幸なんだろう。
 母は病死、父はお金がなくなり、家出。それだけじゃなく、住む場所までなくなっちゃうなんて…。
「ついてないなぁ、私…」 
 そう呟いた時、どさどさっというすごい音がした。
「……?」
「いたたたたたた……」
 おばあさんが買い物袋を落とした音だったのだ。
「大丈夫ですか?」
 無意識に声をかけていて思った。大丈夫じゃないのは、私、だ。
「足をくじいてしまったようで…」
「タクシー呼びますか?」
「悪いねえ」
 私は携帯電話を取り出し、タクシーを呼んだ。思うのは、このケータイ解約しなきゃ…ということばかり。
 タクシーを呼び、おばあさんのもとへ向かうと、私の大荷物(服など)を見つめたまま言った。
「お嬢さん、こんな大荷物だと大変でしょう。お礼としてタクシー代あなたの分も払わせて下さいな。家までお送りするわ」
「いえ、家はもうないので…」
 きょとんとした顔で私を見つめた。
 こんな話をされても困るだけだ。そう考え、必死で笑顔をつくる。
「…お嬢さん、お名前は?」
「白原あゆみ、です」
「あゆみさん。私でよければ、話を聞かせてくれないかしら。もしかしたら、御役に立てるかもしれないわ」
 そんなの、社交辞令、そう分かっていても、今の私にはその言葉がとても嬉しかった。今まで起こったことを包み隠さず、私はおばあさんに話した。
 話が終わるのとタクシーがつくのほぼ同じ時間だった。
「…不幸なお嬢さんなのね」
 そう言って、おばあさんは一枚の紙に何かを書きこみ、私に渡した。
「これは…?」
「きっと、あなたの役に立つわ。そこへ向かって頂戴。あなたへお礼をするわ」
 そう言って、おばあさんはタクシーへ乗り、去って行った。

 そして、現在に至る—…。
 「星屑荘」の前で私は立ち尽くした。
 その時、ドアが開き、あのおばあさんが出てきた。
「いらっしゃい、あゆみさん。さ、どうぞ」
「はい…」
 私は、戸惑いながらも足を踏み入れた—…。

                      第1章 完