コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ココロ×ツバサ 第1話出会い ( No.11 )
- 日時: 2013/06/05 16:50
- 名前: 外園 伊織 (ID: NExr47x9)
ドアを開けるとそこには二人の少女が立っていた。
一人はポニーテールに結われたブロンドの髪がゆるやかにカールしている。和音より5cm程高く、女の子にしては長身だ。瞳は金色でその顔は好奇心で彩られ、モデルみたいにスタイル抜群だった。
もう一人は和音が羨ましい艶のある黒髪をおさげに結んでいた。見た目はおとなしそうだが、清楚で性格が良さそうな少女。服を見るとおしゃれ好きなのがわかる。
いったい自分になんの用だと和音は怪訝そうにしていると、黒髪の方の少女が笑いかけてきた。
「突然ごめんなさい。はじめまして、私同じクラスメイトの茜 葵(あかね あおい)、よろしくね。この子はさっき知り合ったレーナ・マリアムちゃん。私たち和音ちゃんと友達になりたいな、て思って…」
その瞬間。
和音は目を見開いた。
葵が話している途中になんとレーナがいきなり和音に抱きついてきたのである。
「わっ!?」
驚いてそれしか言えない和音に葵は苦笑した。
「ごめんなさい、レーナちゃん人懐っこいから決して悪気はないと思うの」
それはわかっているが、突然だと頭の中が真っ白になってしまう和音である。
「…友達になれるのは嬉しいよ、よろしくね二人とも」
なんとかそう言って和音は心の中で思った。
—さっそく友達ができてよかった…。
それにしてもレーナはまるで犬みたいにはしゃいでいる。
「あたし、あなたと友達になれて嬉しい!よろしくね和音っ」
ちなみに、とレーナはポットからメモ紙をだすとボールペンでさらさらと何かを書いてそれを和音に見せた。
「レーナは日本語で麗奈って書いてみんなからは麗って呼ばれてるんだ」と無邪気に笑った。
とある理由で葵とレーナは和音の部屋ではりっきていた。
「和音ちゃん、こんなに長くて綺麗な髪なんだから髪型をこらないなんてもったいないよ」
「和音っ、可愛い服持ってるじゃん。パーカーとジーンズじゃなくてこっち着ようよ〜」
葵に横髪を結われているので動けない和音はレーナが持っているワンピースを見て、口をへの字に曲げた。
「それ確かにおしゃれなんだけど、私が着ると服だけ浮いて見えるんだよね…」
—私って何を着ても似合わないというか地味というか…。
後ろ向きな思考が浮かんでは消えた。
和音の心の呟きが聞こえたのかレーナは指摘した。
「そーいう考え禁止!それじゃ何も着れないじゃない」
それよりどうしてこうなったんだろうと和音は遠い目をした。
さかのぼること二時間前。
昼食を済ませた後、二人が和音の部屋に行きたいと言ったので、ここは親睦を深める時だと和音は思った。
それに断ったら、せっかく友達になってもらったのが台無しになってしまう。
しかしこんなことになるとは予想していなかった和音である。
—どうしてこんなことになったの…。
和音は仲良く「女子トーク」をするのかと思っていたのだが、二人の目的はこの地味な少女を可愛くすることらしい。
二人は和音のことを一言も地味だとは言っていないが、今の自分にはそう思えてならない。
髪を結い終えた葵はなんだか満足そうに、
「出来たよ、和音ちゃん」と声をかけた。
「…私、ちょと出かけてくるね」
おそるおそるこの部屋から逃亡しようとドアに向かった和音は「だーめっ」と葵に連れ戻された。
おとなしい葵だがこういうときは譲らないらしい。
「ワンピースはやく着て、ホラホラ」
レーナに追い立てられ渋々着ると、二人はきゃっきゃっと喜んだ。
「やっぱり似合うよ」
うんうんと頷いている葵を尻目に、
「気が済んだなら、私出かける用が…」
「じゃあ行こうかっ」
和音の言葉を見事に遮ると二人はからりと笑った。
「えっ、行くってどこへ?」
いいから、と二人は抵抗する和音を半ば引きずりながら目的地に向かった。
寮と校舎の間にある広場に連れて来られた和音は困ったように二人に訊いた。
「二人とも何がしたいの?」
するとレーナはウフフと笑った。
「前を向けばわかるよ」
レーナが言ったようにした和音は目の前にいる二人の人物を見て固まった。
目の前にいる二人組みの男子。同じクラスメイトの昴と空だ。
なかでも、空とは和音の勘違いかもしれないが気まずい。
さっきは空に話しかけてもらったのに最後は男子嫌いの傾向で顔を背けてしまった。
後で気を悪くしてしまったかもしれないと後悔しながらも何も言えず、微妙な雰囲気になってしまったのだ。
彼女の様子に気づかないレーナと葵は二人組みの男子に手を振った。
「昴っ(すばる)、空君!友達連れてきたよ」
そう言いながらレーナは昴の方へと走り出した。
「麗、そんなにはしゃがなくてもいいだろ」
苦笑している昴とレーナを見比べていた葵はぽつりと呟いた。
「いいなあ…。二人とも仲良しで。」
葵は揺れる瞳で唐突に思った。
なんだか、幼かった時の自分みたいだと。
もう昔の事と彼女は頭を軽く振ると、隣にいる和音を見た。
「ね?和音ちゃん」
それまで固まっていた和音は彼女に同意を求められ、あいまいに返事をした。
「え?ああ、そうだね」
「返事が適当な感じがするけれど…まあいいか。昴君、空君この子誰だと思う?」
一瞬半眼になったが特に気にした様子もなく、葵は和音の肩を掴んだ。
一同の視線が集まり和音の姿を上から下まで見ているので、彼女は居心地が悪そうに目を泳がせた。
「同じクラスの齋藤和音ちゃん。可愛いでしょ」
レーナの言葉に昴は目をしばたかせた。
「齋藤さん?へえ、すごい変わって誰だと思った」
感心している彼にレーナはそうでしょ、と胸をはった。
「…………」
一方、空は心底驚いて和音を凝視していたが、恥ずかしくて瞳を伏せている彼女は気づかない。
しばらくそうしていた彼はひとつ頷いて笑った。
「そうだな、女子は可愛らしいのが一番似合うから」
彼の嘘のない言葉に褒められた気がして和音はほっとしたのと同時に嬉しかった。
友達から言われた褒め言葉はどれもお世辞にしか聞こえなかったのに、空はそんな感じは微塵もなかったからだ。
昴は自己紹介はいいよな、と確認して口を開いた。
「よしっ。ここにいる五人は友達になったということで、仲良くやりたいと思う。よろしくな」
和音はこのメンバーに入れたことに感謝した。もし声をかけられなかったら、独りになってしまうのだから。
「そうだ、友達なんだから呼び捨てでタメ口でいいよね?」
レーナの提案にさんせーと五人は笑った。
和音は胸が温かくなったのがわかり、心が浮いたように微笑していた。
—この人達なら信じられそう。
どうしてかそう思えた。
こんな感情は初めてだった。
盛り上がっている中、彼女の笑みに気づいた空は人知れず目を細めた。
———桜の花びらがひとひら舞い落ちて、
いつの日か淡く消えていった……
第1話出会い【完】