コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 見習い陰陽師・ひより —覚醒— ( No.7 )
- 日時: 2013/08/20 10:14
- 名前: 外園 伊織 (ID: FFRec9Wj)
気づけば、森の中にいた
いつの間にこんな所に来たんだろう
あたりを見渡すと一人の女性が日和の目の前に立っていた
ひよりは怪訝そうに呟いた
「…だれ?」
女性は静かに微笑んでいる
腰まであるだろう長い黒髪を背中の真ん中で結い、着物は平安時代と鎌倉時代に男性が着ていた狩衣に似ている
唇には口紅が白い肌を強調していた
花を添えると彼女の美しさが際立つ気がした
ひよりは目をしばたかせた
見たことがある。特別な女性が着るものだ
「…みこ……?」
巫女がなぜここにいるのか。いや、巫女にしては違和感がある
巫女らしき女性はついとひよりから視線を外した
なんだろうと巫女が見ている方向を目で追うと彼女の背後にまばゆいほどの光が輝いている
まるで数多の罪を洗い流してくれそうだ
巫女は日和に向き直ると口を開いた
—…一緒に
「行けと言うの?」
ひよりの問いには答えずに巫女はそのまま光の方へと歩き出した
「まって…くださいっ」
慌ててひよりは女性のすそを掴む
「だれですか?」
再び問うと女性は歌うように答えた
「わらわはこの地を守護する者」
—どういう意味かよくわからない。そういえば今日は難しいことばかり言われてるよ
眉根を寄せたひよりの頭を女性はぽんぽんと軽く叩いた
「ぅ?」
「おまえはまだわからなくてもようぞ」
それはなんかいやだ
「わたしにもわかるように説明してください」
「それは無理じゃのう」
「えぇ〜」
不満たらたらのひよりの様子に、女性は面白そうに笑う
冷たい風が吹いて木々が揺れる
女性の言葉を繰り返していたひよりは目をしばたかせた
「…この地をまもるってことは、もしかしてあなたは死んでいるのですか?」
「なぜそう思う?」
質問を質問で返されてしまったひよりは、何と言えばいいんだろうと考える
「ええと。生きてこの地をまもるのは大変だと思うし、…あなたの話し方が今の人の話し方とは違うから?です」
仮に巫女だったとしても、わらわとか、〜じゃのうなんて時代劇風に話す人を日和は見たことがない
「ほう」
「どうですか…?」
恐る恐る訊くと女性は軽く首を傾かせた
「どうだろう?身体は死んでいるが魂は生きているからのう。当たっているが違うのだな」
それより、と女性がひよりを引っ張る
「わっ!!?」
「わらわについて来い」
「ちょっ、だから待ってくだいっ」
「なんだ?」
「せめて名前は教えてください!」
ひよりは通っている小学校で知らない人にはついて行かないと教わっている。誰だかわからない人にほいほいついて行くほど鈍感な人間ではない…はず
女性はひよりを掴んでいた手を離すと艶やかに笑った
「おまえにだけ教えよう。わらわは第183代天ノ姫・撫子じゃ。知っておいて損はない」
—てんのひめ。なでしこさま。あれ、どこかで聞いたことがあるような…?
知っているはずなのに、思い出せない
「さて、もういいだろう。ついて来い」
行く気満々だ。この人に何を言っても、もう無駄だろう
颯爽と歩く女性にあきらめて自分もついていこうとしたひよりを呼び止める声がした