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- 見習い陰陽師・ひより —覚醒— ( No.12 )
- 日時: 2013/08/21 09:25
- 名前: 外園 伊織 (ID: WZc7rJV3)
自分を呼ぶ声がしたような気がしたひよりは、あれ、と立ち止まった
高い、自分と同じくらいの年齢の、少年の声だ
「どうしたのじゃ」
怪訝そうに振り返った撫子をひよりは見上げた
「だれかがわたしをよんでいるの」
撫子の穏やかな表情から無表情へと変わる
「それがなんだ」
撫子の変わり様にひよりは戸惑った
「だってよんでいるのだから、行かなきゃ……っ」
ひよりは息を呑んだ
—撫子さまが、こわい
そう直感で思った
「撫子さま…?」
「おまえはわらわについてこい」
声がした方を撫子は睨んだ
「でも、あの子もわたしみたいに道に迷ってるかもしれません。そうだ、あの子も一緒に」
「それは駄目じゃ」
ぴしゃりと言い切った撫子にひよりは、でも、と思ったこと口に出した
「どうしてですか。あのまま独りぼっちはかわいそうです」
「あやつなど置いていけ。おまえのためにもな」
撫子の言い方が刺々しい。ひよりはむっとした
「それならわたし一人で行きます」
撫子は驚いたように軽く瞳を見開いた
「おまえ、正気で言っているのか?」
「正気です!」
なにがおかしいのだろう
撫子は何かを考えたのかもう一度問う
「おまえの運命が変わってもか?」
ひよりはひやりとした
—どういうことなの、わたしのさだめが変わるって。あの子と会うだけなのに
きっと撫子は自分について来てほしくて、大袈裟(おおげさ)なことを言っているのだ、とひよりは自分を納得させた
「わたしの運命が変わったとしても行きます」
「…そうか」
撫子はひとしきり黙った後、よし、と目を細めた。彼女が急に温かい印象になったので、どうしたのだろうと小首を傾げる
「それなら、わらわはもうおまえを引き止めはせん。ただし、これを持ってゆけ」
ひよりは撫子に手渡された物をじいっと見た
二つの白い勾玉と薄青の勾玉が紅の紐に通されている
「これは…?」
「一族の女性が代々引き継いでいる勾玉、光玉(こうぎょく)に清玉(せいぎょく)じゃ。肌身離さず持っておくこと。よいな?」
「はい」
頷きながら勾玉を首にさげた
「ありがとうございます、撫子さま」
「気をつけるのじゃぞ」
礼を言ってそのまま少年がいる方向へと走り出したひよりに撫子は声をかけた
日和、おまえと森の奥にいるあの少年の行動によって
「日和とあの少年の運命が狂い始めているのだからな」
—ゆっくりと、確実に
—全ては一つのことから始まっているのだから