コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: まるで磁石【読んだまま容姿コンテスト実施中!】 ( No.162 )
- 日時: 2013/03/18 08:08
- 名前: 春歌 (ID: cSGMzERh)
フレディの協力もあり、藤村くんとのメールは、週に4回という好成績。
最近、調子いいな、と自分で思ったりしつつ、気づいたこともある。
「ねぇ、なんか。ルミちゃん」
今日の天気も雨。
梅雨明けは、いつになるのか。ジメッとした空気が、肌に気持ち悪い。
今日も、美術室だった。
ルミちゃんは、雑誌から顔をあげる。
今日の雑誌は、NHKのお料理テキストだ。なんでも、煮物の特集らしい。
なんとも、勉強熱心であるというか……。
「うん? 何?」
真剣な目が、ふっと和らいでこちらを向く。
あたしは、少し声をひそめた。
「最近、藤村くん、元気ないみたいなんだけど……どう思う?」
たっぷり5秒、ルミちゃんと見つめあってから、ルミちゃんはまた、目を険しくさせた。
「そんなこと、あたしに訊いてどうなるとお思いですか?」
さすがに厳しい……。痛いところをつかれて、苦い顔をする。
「いや、ご意見を、いただきたく思いまして……」
「喝!!」
あきらかに歯切れが悪くなったところを、ルミちゃんは、突く。
「えぇー、相談ってことにしてよー」
ごねるあたしに、ルミちゃんは言う。
「情報集めは大事!! あたしを見よ!」
……うん、そうだね……。
ルミちゃんは、ちゃんとひとりで解決してるもんね……。
「廊下も見よ!」
そう言って、ルミちゃんは廊下を指さす。
んん? なんだか、廊下がうるさくなってきたような……。
男子の部活、特有の掛け声がした。
「え? ……わわわわっ!」
何気なく見て、驚いた。座っていたイスから、落ちそうになる。
「……ふ、藤村くんがいる!!」
バドミントン部が、廊下でフットワークをしていた。
もう1ヶ月後に、運動部は、新人戦がある。その練習がはじまった。藤村くんは、バドミントン部に所属していた。
「ここ、穴場だったようね」
一生懸命、汗を流して部活をしているのは、藤村くんだった。
ときどき、友達に笑顔を見せる藤村くんは、やっぱり、きらきらしている。
「お昼休みまで練習だなんて、熱心な集団よねぇ……真奈実?」
「う、うん」
ルミちゃんは、読んでいたお料理テキストをパタッと閉じて、にやにやと笑った。
これは……確実に、戦いに来るぞ。
あたしだって、臨戦態勢。
まずは、先手を打つ。
「狙ったの? ルミちゃん」
「オフコース」
な、なに!? か、隠しにくると思ったのに……! 出鼻を、見事なまでにくじかれる。
「だって、男バドの掲示板に書いてあったでしょ? 今日から来週の金曜まで、美術室前の廊下
で昼休み練習って。だから、雨になったらここ来ようって、前から考えてたわ」
う、うそ!? あまりの手の早さに、驚いた。
あ、あたしの好きな人のことなのに……。
「そ、そんな……!! い、いつから!?」
「おとといから。って言うか、こんなおいしい情報、逃すほうがおかしい」
ビシッと言われて、口ごもる。
「だ、だって、さ」
そんなところまで、目がいかないよ……! 遮った言葉は、痛かった。
「わかった? 自分の情報の薄さを」
完全にとどめになった。
もう、あたしの完敗だよぅ。藤村くんのことが好きなのは、あたしなのにさ……。
立ち直ったはずのこころが、萎えそうになる。
じくじくと、捨てたはずの気持ちが、うずきだす。
「はい、痛いほどわかりました……」
ぐさっりとこころに来た。ダメージは、予想以上に大きい。
次から、頑張ればいいんだよ。
比べても、意味ない。
どうにか、立ち直そうと、考える。
……そのとき。
「藤村!? どうした!?」
廊下から、大声が聞こえた。部活のものではない、明らかに、悲鳴に近い声。
さっきまで、和やかだった部活の空気が一転しているのが、美術室の中からも、よくわかった。
藤村くんが、倒れている……。
「藤村! おい!!」
さっきまでしゃべっていた藤村くんの友達が、必死で名前を呼ぶ。
あたしとルミちゃんはお弁当を投げ出した。
意識が朦朧としている藤村くんに、息をのんだ。
苦しそうに、息だけをしていた。
「だ…いじょ……ぶ」
だれも聞き取れないような声で、言う。
ただ見ていることしかできなかった、その場にいた全員に、ルミちゃんが指示を出す。
「先生呼んで! あと、それまで冷やす!! タオルとか、濡らして首とかにあてて!! スポーツドリンク飲ませて!」
ルミちゃんは、こんなときも冷静な判断を、そこなわなかった。
あたしは弾かれたように、先生を探しに出た。
優秀な友達と自分を比べる、自分自身に、強くフタをするように。