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Re: まるで磁石【読んだまま容姿コンテスト実施中!】 ( No.167 )
日時: 2013/03/18 22:36
名前: 春歌 (ID: cakHq5Qm)

「やっぱり、藤村くん、熱中症だって」

この情報も、やはり、ルミちゃんからの情報。

人がいなくなった教室で、ルミちゃんは言った。

藤村くんは、あのあと担架で保健室に運ばれ、5限も6限も、ショートホームルームもでなかった。

あたり前だ。練習でぶっ倒れたんだから。

そのかん、あたしの隣の席は、寂しかった。

「見舞いにいけば? 藤村くん、帰りたくないって言って、保健室にまだいるらしいよ」

バックに、教科書やノートを詰め込みながら、あたしはつぶやいた。

「……いいよ、もう帰る」

なんで、ルミちゃん、そんな情報もってんの……?

1度フタをした、黒い感情が、せりあがる。

せりあがったものは、押さえが利かなくなっていた。

これ以上、ルミちゃんに顔を見られたくない。こんな、あたしのいやな顔。

バックを肩にかけると、ルミちゃんを待たずに、教室をでた。

こんなあたしは、ルミちゃんも見たくないんじゃない?

……最善と思ってでた行動が、大きく、裏目にでることも知らずに。

「ちょっと、待ってよ、真奈実!!」

追ってきたルミちゃんが、あたしの腕をつかむ。つかんだ力は、強かった。

そんなところにも、黒いあたしは、ひねくれたことを考えてしまう。

そんな力で止めなくても、ルミちゃんはひとりでやっていけるでしょ?



あたしなんか、いなくても、いいでしょ?



つかまれたその手を、振り払った。

……なんでそんなに、傷ついた顔すんの?

「なんで!? 今日、どうしたの!? おかしいよ、真奈実」

完全に、黒だった。

「ルミちゃん、あたしには、無理だよ。ルミちゃんみたいに、優秀じゃないし」

ルミちゃんは、さらに、傷ついた顔をする。

皮肉を含んだ言葉は、充分にルミちゃんを傷つけていた。

もっと、もっと……黒い渦は、あたしのこころを飲み込みにくる。渦から抜けることは、できない。

「真奈実、諦めるの? 好きな人の、お見舞いくらい、行けば——」

ルミちゃんの言葉を遮った。

もっとの声が大きくなった。

「いいの、もう! あの人を救ったのは、あたしじゃなくて、ルミちゃんでしょ!?」

言ってることが、めちゃくちゃなのは、わかっていた。
でも。どうしても、止まらない。

黒いものが、次々と、わきあがり、正常なこころじゃなくしていく。

「そんなこと、関係ない!! あんた、好きじゃないの!? 本当に好きなら走ってでも、あたしは行く! さとにぃが倒れたら、真っ先に駆けつけるよ、あたしだったらね。グズグズしてたら誰かにとられるよ!!」

「ルミちゃんだって人のこと言えないでしょ!?」

……言葉は、お互いを傷つけるために、用意されていた。

「自分で言うのもなんだけど、真奈実よりは努力してるよ!」

「なんなの? じゃああたしにこれ以上何しろって言うの!?」

「ちょっとは行動したらいいじゃん!!」

「あたしはできないの、そんなこと!! 振られるかも知れない相手に、できない! ルミちゃんは、素直だからそんなこと言えるんだよ!!」

お互いが、傷ついて、血を流していた。

「あんた藤村くんのこと、心配じゃないの!?」

「心配だよ! それくらい、わかってよ!! あたしとルミちゃんの考えかたは、違うでしょ!!」



あたしの言葉も、ルミちゃんの言葉も、止まる。

あたしも、ルミちゃんも、傷ついた顔を、したからだ。


こころが、痛かった。

相手を全力で傷つけにいくけんかなんて、したことがなかった。

こころの黒いものは、小さくなって、いつの間にか消えていた。

黒いものの代わりにこころに浮き上がったのは後悔。傷つけたことがわかれば、なおさらだ。

でも、こっちのほうがいい。そう思ってしまうのは、黒いものの後遺症か……。


いつの間にか、視界がくもる。ルミちゃんの表情が揺れだす前に、うつむく。

ルミちゃんは、何も言わずに歩き出してた。

離れてから、顔をあげる。涙がこぼれ落ちて、ルミちゃんの背中がはっきり見えた。

ルミちゃんの手は、目元にあった。