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Re: まるで磁石【参笑600、ありがとう!】 ( No.174 )
日時: 2013/03/19 19:37
名前: 春歌 (ID: cakHq5Qm)



ルミちゃんが行ってからも、あたしは廊下に立ち尽くしていた。

涙が、あふれる。

もしかしたら、本当に大切な友達をひとり、失ってしまうかもしれないという恐怖。

……戻らない言葉は、怖い。
扱いを間違えば、大きな穴をつくる。

あたしとルミちゃんの間に、確実にひとつ、大きな穴が空いた。

埋められないかもしれない……。

不安と、恐怖が、こころに押し寄せる。

このまま、戻らなかったら……? あたしは、どうするんだろう。

「あれ、真奈実?」

不意に、後ろから、誰かがあたしを呼んだ。

こんな泣き顔は、誰にも見られたくなくて、慌てて目元を拭う。近づいてくる足音は、静かな廊下によく響く。

パタパタと、あたしの前にまわりこんできた人は……。

「やっぱ、真奈実じゃん」

藤村くんだった。

まだ本調子ではないのか、おでこに熱さまシートを貼って、手には500ミリリットルのスポーツドリンクを持っていた。

顔を上げると、ぽろぽろと、情けないくらいに涙がこぼれる。

不安でいっぱいだったこころが、ようやく、和らぐ。緩んだ糸を張ることは、できなかった。

「泣くなよー」

涙で声が出せないあたしに、藤村くんは、笑顔をみせた。

「おまえら、けんかしたな?」

まるで、いたずらをした子どもを見つけたかのように、ニッと口を横に広げて笑う。

あたしの頭をくしゃくしゃと、強くなでた。

「よしよし、俺が話をきいてやろう」

好きな男の子に、そんなふうに優しくされると、涙は止まることを知らなくなる。

とうとう、うつむいた。口にしたい言葉はたくさんあるのに、なにひとつ、出てこない。

藤村くんのほうが、倒れて、大変だったのに……。

本当は、あたしが気配りしなきゃいけないのに……。

藤村くんは、疲れた素振りをひとつもみせずに、ただただ笑顔で、あたしの話を聞こうとしてくれた。

「座ろうか、とりあえず。ね?」

藤村くんはペットボトルを床におくと、あたしの両手を優しくつかんで、その場にしゃがむ。

「落ち着いたら、話してみ」

優しくも真剣な声が、あたしを落ち着かせた。

ようやく涙が止まったころに、あたしは口を開く。



つづく…