コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: まるで磁石 ( No.57 )
- 日時: 2013/03/01 01:45
- 名前: 春歌 (ID: cakHq5Qm)
そのケータイショップは個室で対応してくれるようになっていた。ハローワークのようなつくりだ。最初は若い女の人が対応してくれたけど、フレディの事情をきいて、担当がかわった。
ルミちゃんと並んで座って、待っていると、今度は若い男の人がやってきた。
20代前半で、さっぱりとした男の人だった。属に言う、イケメンである。胸の名札には、”草宮”とついている。
ルミちゃんと草宮さんの目が合う。会釈をした。
……知り合い?
「今日は、どうなさいましたか?」
ボーっとしているところに尋ねられて、妙にドギマギしてしまう。
「あの、フレディ……あ、えっと、スマホの調子が悪くて……」
気のせいか、フレディと言ったとき、草宮さんの表情が険しくなったような気がした。
そして、神妙なおももちでこう言った。
「…もしかして、電波障害とか、フリーズとか、起きませんでしたか?」
「そうです、それです!!」
ルミちゃんとふたりで、顔を見合わせた。
「もしかして、送信者がわからないようなメールとか……、届いてませんか?」
あたしは、息をのんで、大きくうなずいた。ルミちゃんは、あたしのほうをむいて、目を見開いていた。
「そうなの、真奈実?」
「うん。名前つけてから、そういうのくるようになって」
あたしは、恥ずかしくそう申告した。ルミちゃんはもっと驚く。
「フレディからだと信じてたんですけど、違いますよね……」
あたしは草宮さんに恐る恐る尋ねる。
もともと、そんなこと、あるわけないのだ。今ここで、それが証明される。
もう少しだけ、夢を見ていたかった。
そう思っていた。
しかし、草宮さんは意外な言葉を続けた。
「稀に、いるんです。名前をつけたら、命を持つ携帯電話って。お客様のフレディも、そうかと思われます」
そして、にっこり笑ってこう言った。
「お客様は、とても幸運ですね」
と。
フレディからきたメールを草宮さんに見せた。
あたしの好きな人もばれてしまうけど、仕方がないだろう。そして、草宮さんは、不具合の原因を見つけてくれた。
「これ、この文」
それは、”まなみ、ふじむらくん、すき?”という文だった。
「お客様は、この文をどう感じましたか?」
「からかわれてるのかと思いました」
自分の気持ちを伝えて、あの日のやり取りを思い出す。
——はいはい、好きですよー。フレディより好きですよーだ。
…たしか、そう言った。
そこから、フレディのメールが来なくなった。
草宮さんは、続ける。
「この文、実は、からかったのではなくて、フレディなりの心配をしていたのかと思われます。メールの文字というのは、送り主がどんなに感情をこめても、その感情というのは届きにくいものです。メールでの勘違いは、何度も経験されたことが、きっとあるのでしょう?」
ある。よくある。絵文字や顔文字がないまま打つと、大抵、不機嫌に勘違いされる。
「フレディもきっと、同じです。自分のことを、嫌いにならないでほしい……。そんな願いを、フレディなりに、込めたもかもしれませんね」
だとしたら、あたしは……ひどいことをした。
「ごめん、フレディ」
唇から言葉がこぼれる。気づけなかった。フレディ、ほんとは優しい子なのにね。いじわるなんて、したことなかったのに。
この先は、家に帰ってから伝えようか。
あんたのこと、嫌いになんかならないよ。好きだよ、フレディ。
草宮さんに見送られて、あたしたちはケータイショップを後にする。
帰る途中、歩きながら、ルミちゃんは言った。
「ねぇ、真奈実」
「あたしの好きな人、教えてあげる」
「え?」
今なんて…? そう思ったときにはもう、ルミちゃんの顔は、珍しく赤かった。
ルミちゃんは唐突に、名前を口にした。そうしないと恥ずかしいのは、あたしも知っている。
「……草宮さん」
目を見開くあたしを、ルミちゃんは見ない。
りんごか、たこか、何かのように、頬が赤かったからだ。