コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ノンストップ☆days〜イタズラと悪魔は紙一重〜 ( No.1 )
- 日時: 2013/02/21 13:48
- 名前: 瀬野 こなみ (ID: DHfHPQAg)
episode1『とにもかくにもヘンなモノ』
とにかくあたしは信じてる。誰がなんと言おうとも。
——幽霊は絶対いる!
ここはとある近郊。住宅街の外れにある小さな公園に月の光が降り注ぐ。
その公園の街灯に照らされて、二つの長い影が伸びていた。
「よしっ、準備オッケイっとお。……で、そっちはどお? ヒナタ」
一つの影の主がパンパンっと勢いよく両手を叩く。
「どお? ヒナタ」と問われ、もう一つの影の主がその言葉に反応した。
「っえ゛…… ま、まあ言われた通りにやってみたから大丈夫だとは思うけどさ。……楪、お前まさか本気でこんなこと……」
「このあたしが自分の言ったことを実行しないように見えて?」
楪が二マッと笑いかけると、ヒナタはそれこそ石のようにじっと動かなくなった。そんなヒナタに楪はまたしてもニマッと笑いかける。
「まままっ。とにかくあたしにまっかせなさあい! ね、おにーちゃんっ」
同い年の実兄であるヒナタを見てドンッと胸を叩くと、ヒナタは怪訝そうに顔をしかめ、
「マジかよ……」
そう呟いた。
- Re: ノンストップ☆days〜イタズラと悪魔は紙一重〜 ( No.2 )
- 日時: 2013/02/20 22:42
- 名前: 瀬野 こなみ (ID: DHfHPQAg)
******
肌寒い風が楪の前髪をかきあげる。
楪は埃を被った分厚い茶色の表紙の本を手に持っていた。
南東から吹く風に着けている漆黒のマントをはためかせ。
耳の上で二つに結っている三つ編みもなびかせ。
ついでに制服のスカートもはためかせ。
学校からこっそり盗んできた白のチョークで描いた三角やら四角やらの図形が入り組んでいる魔法陣の中央に立つ。
「っていうかお前、その黒のマントどっから持ってきたんだよ。まさか万引きとか言わないだろーなあ」
そんな楪を遠巻きに見ながらヒナタが人を馬鹿にしたような口調でそう言った。
「ちょっとそこ、外野っ! うっさい! 黙れハゲ!」
「誰がハゲだ! オレはまだ十分すぎるほどフサフサだ!」
「雰囲気壊すなって、ばあーーーっ!」
注意しても聞かない外野に、楪は言葉と共に其処ら辺に丁度良く転がっていたソフトボール大の石を投げつけてやった。見事命中。
「さっすがあたしっ☆」
ガッツポーズをとってから、楪は静まり返った公園で、パラパラと黄ばんだページをめくり始めた。
お目当てのページに差し掛かり、ぴたりと手を止める。
——すうっ。
深く息を吸う。
そして、月の光と街灯の僅かな灯りを頼りに、本の中身を唱え始めた。
「【古今東西を守る神よ 我に力を貸したまへ。卯より酉に沈む者、汝の在るべき姿形で君臨し虚空に続く道を開け】っ!」
「……アホらし」
突然、声がした。
ソフトボール大の石にノックアウトされて伸びていたヒナタであった。石が直撃した即頭部をさすりながら、なんのためらいもなくため息混じりにそう呟く。
「アホらし」
続けざまに同じように繰り返す。
人が真剣に行っている時に「アホらしい」と言われたら、当然、誰でもムッ となるものである。
もちろん楪も人の子良い子。ムッとなり、
「ちょっとヒナタあ! あんた『アホらし』ってなんなのよ『アホらし』って! しかも二回も言って! 泣いちゃうわよ!」
「アホらしいから素直な感想を述べたんだよ。だって……そう。アレだろ?幽霊を呼び出すって、本当に出来るとか思ってんのか? ちょっと頭のおかしい本の読みすぎなんじゃねーの」
「ばっ、馬鹿にしたわね! それにちょっと頭のおかしい本の読み過ぎはあんたの方でしょーがっ! ……ってかヒナタ。あんた、夢がないのね」
憐れむように、言う。
「可哀想な子だねえ。どうしてあんたって子はこんな子になっちゃったんだろうねえ。片割れのあたしはこーんなに素直で可愛くて良い子なのに。うんうん」
「よけーなお世話だ! んでもって全くもって逆だよ!」
「ま、とにかくとにかくぅ、」
楪は魔法陣の外にいるヒナタをちらりと見やると、直ぐに細かい文字の書かれた本に目を落とした。
「呪文唱えてる最中なのよ。邪魔しないでよね」
「お前が勝手に絡んできたんだろーがっ」
「うっさいなあ……全く、もお……」
誰に似たんだか……、と愚痴をこぼしながら、空いている右手で片耳を塞ぎ、楪は残り三行である呪文を一気に唱えた。
「【失われし彼の者は空音により破滅に導かれん。いま降臨する。我の前に姿を現せ】っ!」
一陣の風が虚しく楪とヒナタの間を通り抜けていく。
——何も起こらない。
- Re: ノンストップ☆days〜イタズラと悪魔は紙一重〜 ( No.3 )
- 日時: 2013/02/20 22:46
- 名前: 瀬野 こなみ (ID: DHfHPQAg)
「な、何で……」
「ほーらみろ。やっぱオレの言った通りだって。こんなの出来るはずがないって……」
「…………」
「言ってる……」
楪はただ魔法陣の真ん中で呆然と立ち尽くしていた。
それを見兼ねたのか、ヒナタは落ち込んでいる様子の楪にポツリと問う。
「……なあ、そのめちゃくちゃボロボロっちい埃被った本さ、どこで手に入れたんだ?」
「ぼッ、ボロボロっちい埃被った本ってなんなのよ! これ、あたし達のお兄ちゃん、アクラから貰った大切なものなんだからね! 酷いとか思わないの!?」
「いや、お前の場合貰ったんじゃなく奪ったんだろ。亡くなった兄貴、死ぬ間際まで持ってたもんな。で?」
「で? じゃないのっ。これに載ってる降霊術とかなんとかを実践したらもしかしたらアクラに会えるんじゃないかって考えてるバカなあたしがいるのよ。…………本当に……バカだよね、あたし」
「……本、ねぇ」
楪から本を受け取り、ヒナタはそれをパラパラとめくっていく。カビ臭い何かが鼻をつく。
「って、きゃああああああ! ヒナタあんたっ、これ、アクラから貰ったもんなんだから汚い手で触んないでよねっ」
突如、物凄い勢いで本をぶん取られ、何が起こったのか把握できていないヒナタはしばし自分の手を呆然と見つめていたのだった。
それからようやく楪の行動を理解すると、魔法陣から離れたところで本を大事そうに抱えている楪に、頬をヒクヒクとヒクつかせながら近づいていく。
「オイ。汚くて悪かったな。どーせオレは穢れてますよー」
「なんだ自覚してるんじゃない。穢れてんだったら今から身を清めるためにナイアガラの滝にでも打たれてきなさいよ」
「清める前に溺死しちゃうだろーが! お前、オレをなんだと思ってやがる!」
「恥ずかしくも、あたしの双子の兄よ! 全く……こんな奴があたしと血が繋がっているということ自体が恥ずかしいわ」
「それはこっちのセリフだけども!」
フンッ。
楪とヒナタはお互いそっぽを向いてひとまず兄妹喧嘩を終結させた。
「……それにしても、」
今二人から離れた場所に描かれている魔法陣は月の光が反射して、静かに冷たく光っている。
「やっぱ無理だったな、その……幽霊呼び出すヤツ」
そっぽを向きながらヒナタが言う。
楪はその言葉に勢いよく振り返って、
「無理じゃない! 無理って言ったら無理に決まってるわよ!」
黒いマントをはためかしながら、
「大丈夫。幽霊は、必ず現れるんだからっ!」
「さあ、どーだか……」
微塵も信じていないヒナタに、楪は飛び膝蹴りでも食らわせてやろうかとそっぽを向いたままのヒナタに駆け寄って——
「——!?」
突然、楪の後ろの魔法陣がピカッと激しく光った。続けて中心部分から銀色を帯びた風が巻き起こる。
それは月の光を吸い込むかのように、どんどん大きくなってゆくのである。
「おっ……おい楪、これは…………。どういう、ことだよ」
「あたしに聞かれたってえええーーー」
その間にも風は竜巻と化して周りにある木々をざわめかす。
そして——。
なんと、その竜巻から黒いブヨブヨした物体が溢れんばかりに出てきたのだった。
——スライムのような。
——影のような。
——はたまたアメーバのような。
何処が顔とも知れないが、裂け目からはこの世を絶するような悲痛なうめき声が漏れ出していた。これらがこの世のものではないことは確かであった。
- Re: ノンストップ☆days〜イタズラと悪魔は紙一重〜 ( No.4 )
- 日時: 2013/02/20 22:47
- 名前: 瀬野 こなみ (ID: DHfHPQAg)
「いやあああ! ち、ちょっとヒナタっ! こ、これは想像を遥かに絶するモノよ! どーにかしなさいよおお」
ヒナタの服にしがみつきながら叫ぶと、ヒナタは震えた声で、
「ど、どーにかって言ったってお前……オレだって、…………怖いんだ」
「あんた男でしょーーっ!?」
「この際、男か女かは関係ないだろう! 男女差別だあああ!」
「いっつも『女おんな』うるさいのは、あんたの方でしょうがーー!」
こんな時でも言い合いを始めるいつも通りの二人。
そんな二人に吹き付ける風はより一層強烈なものになってくる。
と、言い合いをしながら飛ばされないように風に対抗していた楪に、黒い物体がバッと襲いかかってきた。
「キャーーッ!」
「楪っ!?」
楪は掴んでいたヒナタの服を思わず離してしまった。
黒い物体が楪を追う。
楪は必死になって黒い物体を避けまくる。
「いーやー! こっち来ないでええええーーっ! 清らかな私の全てが穢れるううう! どうでもいいヒナタの所へ行ってよーー!」
「オレに擦りつけんなっ!」
「…………っ!」
ブンブンと腕を振ってガードを図るが、意味は無い。黒い物体は顔らしくない顔にポッカリと空いている口らしき穴を歪ませた。
『我ヲ呼ビ出シタノハ、オマエカ』
【ソレ】は確かに、そう言った。
- Re: ノンストップ☆days〜イタズラと悪魔は紙一重〜 ( No.5 )
- 日時: 2013/02/20 22:49
- 名前: 瀬野 こなみ (ID: DHfHPQAg)
『我ヲ呼ビ出シタノハ、オマエカ』
奇形なモノにそう問われて。
「なっ、何よ。あんたなんか、呼んっ、呼んでないわよおっっ!」
『イヤ、確カニオマエダ』
「分かってんならいちいち尋ねないでよねっ」
「ゆ、……楪あーーっ!」
遠く離れたところで、ヒナタが必死になって叫んでいる。
「お前っ、ヘンに相手、刺激すんじゃねーぞっ。何されるかわかんねー……っ」
そこまでだった。
楪は急に体が宙にふわっと浮いたような、
——ような、ではない。確かに浮いていた。
「少し、目を瞑っておけ」
「へ?」
落ち着いた少年の声に、楪は思わず目を開けて——後悔した。
楪は今、ビルの三階程の高さに居た。数字で言うと約九メートルである
そう。楪は今、少年にお姫様だっこされる形で、木の上にいた。
ついと下を見ると、魔法陣とヒナタの姿が小さく見えた。
「ひぃいいいいいい!」
「……静かにしろ」
「こっ、これが静かに出来る状況だとお思いで?! 早くこっから降ろしなさいよ!」
「だったら、——今すぐ黙れ」
そう言うと少年は楪の腕をグイと強く掴み、木を軽くトンッと蹴って、
——落ちた。
- Re: ノンストップ☆days〜イタズラと悪魔は紙一重〜 ( No.6 )
- 日時: 2013/02/20 22:52
- 名前: 瀬野 こなみ (ID: DHfHPQAg)
「い……やあああああああああ!」
ビュオオオオ————
下から吹き付ける風のせいで、耳より上の位置で結わえている三つ編みが揺れ、黒マントがバタバタとはためいた。気圧で耳の奥がキーンと鳴った。
「死ぬっ! ちょ、死ぬってば、ねえ…………っ!」
楪が甲高く叫んだので少年はうるさそうに顔をしかめ、
「……もう大丈夫だ」
「え——?」
ストンッと軽やかに着地した少年の後ろで、楪は顔面からべシャッという効果音付きでコンクリートに激突した。お世辞にも華麗に着地したとは、言い難い。
少年はそんな楪を表情を一つも変えず、端正な顔で見下し、
「大丈夫か」
ポツリと呟く。
「い゛…………っ」
そう声を発した楪は、何も持っていない両手で鼻を押さえた。
「いったあーーいっっ!!」
そうこうしている間に今まで蚊帳の外状態であったヒナタが魔法陣を避けるようにして駆け寄ってきた。荒い息をなんとか沈めようとしながら、「おい楪、……大丈夫、だったか」そう聞いてくる。
「だったか、じゃないわよ! 見りゃ分かんでしょ。鼻が痛いのよ、は・な!」
必死に痛さをアピールしたのだが、ヒナタは「それだけか、……良かった」安堵の息を漏らしていた。しかしすぐに神妙な顔つきになると、楪の後ろに立っていた、まさに冷静沈着の象徴とも言える少年を直視して、
「……お前、誰」
「ちょっとヒナタ」
無愛想に質問するヒナタに楪は脇腹を小突いてやった。
ぐえっとカエルが潰れたような声を出して、ヒナタが顔をしかめる。
「……あのねえ、初対面の人に普通、『お前、誰』なんて無愛想に聞く奴がいる? しかも、仮にもあたしの命の恩人なんだし!」
「じゃあ、どうやって聞くんだよ」
「基本中の基本よ! まずは、こう、愛想よーく、笑うのよ」
「笑うのか」
「そうよ。そんでもってその笑顔を保ったまま、『ご機嫌麗しゅう』とか『今日も天気がようござんすね』とかなんとか言うのよ。分かる?」
「ちなみにそれはどこで仕入れてきたネタなんだ」
「この前学校帰りに立ち読みした少女漫画のワンシーンよ! ……って、あんた今ネタって言ったわね。言ったわね!? 人がせっかく……!」
ヒナタは怒りに任せてまくし立てる楪をじっとりとした目で見る。
楪はひとしきりヒナタを罵倒したあと、諦めたようにうなだれて、額に手を当てた。
「ヒナタ、あんたって子は……」
「なんだよ」
「あんたね、興味ってもんはないの!? 何事にも興味を持ちなさいよ! これだから最近の若者たちは廃れる一方なのよ! って、この前近所のおばちゃん達と喋ってたのよ」
「そうか」
「そうなのよ! で、そんな若者たちにはやっぱりお手本が必要だって話になってね。とまあそんな訳で、手始めにいっちょヒナタ君に実践してもらいましょー!」
「どーいう訳なんだよ! どーしてこーなるんだよ!」
反抗してくるヒナタに、「しょうがないわね。まずはあたしがお手本を見せることにするわ」軽くフフンと鼻で笑い、楪は誰が見ても営業スマイルと分かる笑顔を浮かべ、くるんっと少年に振り返った。
「お待たせいたしましたわね。初めまして」
営業スマイルを微動打にせず、楪は続ける。
「あたしは望月 楪(もちづき ゆずりは)。でもってこっちのめっちゃ地味ぃで見るからに弱そぉでイケてなくてダメダメっ子な男の子が恥ずかしながらあたしの双子の兄、望月 雛汰(もちづき ひなた)よ。ところであなたのお名前は?」
楪の横で少しボサつき気味の髪の毛を掻いている不服そうな兄が視界に入るが、あえて無視する。当然だ。自己紹介に33文字も割いてやったというのに、何が不服なんだ。
「ユズリハとヒナタ、だね。俺は織塚 拓巳(おりづか たくみ)だ。よろしく」
「…………!?」
タクミの言葉に、先程まで不服そうだった兄の顔つきが、ふっと変わった。
- Re: ノンストップ☆days〜イタズラと悪魔は紙一重〜 ( No.7 )
- 日時: 2013/02/20 22:54
- 名前: 瀬野 こなみ (ID: DHfHPQAg)
もちろん楪は片割れの異変にすぐさま気がつき、
「ちょっとヒナタあんた……どうしたのよ」
ヒナタの脇腹を小突きながら小声で尋ねると、
「いや、……なんか、さ。ヘンな、感じがして」
「変な感じ? タクミ君が? ……どこがどう変なのよ」
「ヘンっていうより、なんかこう、……いや。多分気のせいだ」
そう言ってふいっと顔を背ける。
そんなヒナタに楪はただ首をかしげるしかなかった。——と、
「はぁーいっ! こんにちはです。……あり? こんばんはですか? まあとにもかくにも陽ちゃん登場お! ですっ」
甲高い声と共に小さな影がヒナタに跳びついた。
「う゛がっ」
押し倒されたヒナタはそのままゴンッとコンクリートに後頭部をぶつけてしまう。
しかしヒナタを押し倒した張本人は全く気にしていない様子で、
「こんばんはですっ。サンちゃんです! 太陽の『陽』って書いて『サンちゃん』ですよっっ。よろしくですっ☆」
ニコニコと満面な笑顔を浮かべたまま、『サンちゃん』と主張しまくっている少女はそう続けた。そして、にっこりと愛嬌たっぷりに笑う。
人を惹きつける魅力的な笑顔に、楪は思わずぼーっと見つめてしまう。
その少女(元凶)に乗っかられて潰されかけているヒナタ。
——双子、成すすべなし。
そんな状況下で、それまで黙り込んでいたタクミが声を発した。
「陽、お前がどかないとヒナタが潰れる」
タクミの言葉に、サンちゃんは はっと反応を示した。
まるで、今まで気づいていなかったかのように。
「あいですっ。サンちゃん、退くです」
ぴょんっとヒナタの上から飛び退くと、ヒナタはむせてゲホゲホと咳をしながら立ち上がった。そして、
「あっ……」
急に青ざめた。
「ヒナタ、どうしたのよ」
「おい楪っ。お前、何か大事なことを忘れて、ないか?」
「何を?」
きょとんとする楪にヒナタは「おい」という顔をしかめて、魔法陣を振り返る。
楪たちもそれに釣られて振り返る。
「魔法陣がどうかした…………あ」
ヒナタがこくりと頷く。
「そうだよ。あの、突然現れてオレたちを襲った、黒い不気味な物体だ。どこへ行ったんだろう」
「そう言えば知らない間に消えていたわね。乙女の復讐に怖じ気づいちゃったのかしら。迷子センターに頼んで迷子の放送でも流してもらう?」
「ゴメン。オレ、あいつらの親になる自信、無いんだけど」
「それはもちろんよ。誰でもそう思うわ」
双子はお互いに大きく頷きあった。それは、何年ぶりかの意見の一致であり、双子は滅多に無い出来事に小さな喜びを感じていた。そこにサンちゃんの声が被る。
「そいつらはそれぞれ、住みやすい所へ行っちゃったです」
双子は、お互いに顔を見合わせて首をかしげる。
「は? す、住みやす……?」
「ハイです。サンちゃん達はそいつらを追ってきたです。ね、タクミぃ?」
サンちゃんがそう言ってタクミを振り返る。タクミを顔をしかめて、
「変な呼び方で俺を呼ぶな」
そう呟いたあと、ゆっくりと頷いた。
「あの、それって、どういう……?」
その場で立ち尽くすしかない楪とヒナタ。
ニコニコと終始笑顔を浮かべて双子を見ているサンちゃんとは正反対に表情を崩さずに対峙するタクミ。
そんな四人をいつもと変わらない月が青白い光を放って無慈悲に見下ろしていた。
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【episode2『邪魔モノとジャマ者 乱入!』に続く】