コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

日常と変わりゆく日常3 ( No.122 )
日時: 2013/04/09 00:16
名前: ゴマ猫 (ID: RohPBV9Z)

かおりと別れ家へ戻ってきたが、あれ以降の会話はよく覚えていない。
居なくなってしまう……その事が、頭の中をループしていた。

トントントン。

真っ暗の部屋に、ノック音がひびく。

「お兄ちゃん?そろそろ夕飯だよ?」

優子の声に気付き、時計を見ると、すでに19時をまわっていた。

「あぁ……悪い。今日は食欲がないんだ」

よく心配事やストレスなんかがあると、食欲がなくなるって言うけど本当だな。
今は食べたいって気持ちがない。

「どうしたの?体調悪いの?」

扉越しに心配そうな声で聞いてくる。

「……あぁ、悪いな。せっかく作ってくれたのに」

「良いよ〜。それより、私にしてほしい事あったら言ってね」

そう優子が言って、パタパタと扉から離れていく音がした。

真っ暗な部屋の中、カレンダーを見て考える。
かおりが居なくなってしまう日まで、もう1週間もない。
俺はどうしたら良いのだろう。



翌日も俺は思案にくれていた。
しかし、考えれば考えるほど分からなくなり、どつぼにハマっていた。

「よっ、何難しい顔してんだよ?」

昼休み、赤坂が話しかけてくる。

「赤坂か……ちょっと、色々考え事をしててな」

「お前、最近そればっかだな……って前にもこんな事言ったな。あんまり悩んでるとハゲるぞ?」

「うるせーよ。茶化しにきたなら、他でやってくれ」

人が真剣に考えてるというのに……。
俺の表情から、そんな考えを読みとったのか、赤坂が真面目な顔になる。

「おっと、悪かったな。ってか水島、悩みがあるなら聞くぞ?」

「あぁ……だけど相談しても、こればっかりはな」

人に相談してかおりが引っ越さないのなら、いくらでもする。
だが、そうではない。
これはかおりの家庭内の問題である訳だし、俺にどうこうできる事はないのだ。

「まぁ、お前の考えてる事は何となく分かるけどな。進藤さんの事で悩んでるんだろ?」

核心をつく一言に驚く俺。

「ど、どうしてそれを?」

俺、この事誰にも言ってないのに。
赤坂って結構するどいよな。

「どうしてって、お前見てりゃ分かるよ。大体悩み事って言ったら、進藤さんがらみだもんな」

「そんな事ないだろ……多分」

そんな事あるな……。
この間の弁当の時も、その事で相談したしな。
さすが昔からの友達だよな。
話すだけでも、赤坂に話してみるか。

「実はな、かおりが転校する事になったんだ……」

「転校?」

「あぁ、親父さんの転勤が決まって、それでだそうだ」

「それって遠いのか?いつ行ってしまうんだ?」

「あぁ……来月には行くみたいだ」

口に出して言っていくと、どうしようもない事実の現実味が出てくる。

「1週間もないな。それで、水島はどうしたいんだよ?」

正直な話し、どうしたいかも、どうしたら良いのかもよく分からない。

「……分からん。でも、かおりと離れるのは嫌だな」

それだけは、俺の確かな気持ちだった。

「……なるほど」

赤坂は目をとじて考えこむ。
少し考えた後、ゆっくり目をあけた。

「なら、進藤さんに行くな!!って引き留めれば良いんじゃないか?」

「そんな事、言える訳ないだろ……」

そんなワガママを言える訳がない。
あいつだって本当は行きたくないはずだ。
それでも仕方ないから、あんな悲しそうな顔して。

「水島は進藤さんの事、好きじゃないのか?」

「好きに決まってるだろ」

嫌いな訳ない。
嫌いならこんな悩む事なんてないからな。

「それは、友達としてか?それとも異性としてなのか?」

「そ、それは」

不意に赤坂から問いかけられた質問に、俺は答える事ができなかった。



その夜、俺は自室で今日赤坂に言われた事を考えていた。
かおりには何だか顔を合わせづらくて、今日は会っていなかった。

「……俺はどうしたいんだろうな……」

かおりが大事な友達である事は間違いない。
けれど、それ以上の何かがある事も間違いないのだ。

かおりと恋人関係になりたいのか俺は?

でももし、フラれてしまったら今の関係でいる事も難しくなるんじゃないか?
……ってか赤坂は何でそんな事を聞いたんだろう?

そんな事を考えていると、扉越しに優子の声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん夕飯できたけど……今日も食べないの?」

優子は心配そうな声で聞いてくる。
さすがに昼はパンを食べたのだが、食欲は相変わらずない。
だがさすがに、2日続けて食べないとなると、優子にも心配させると思ったので、扉を開けて部屋を出る。

「あっ、お兄ちゃん大丈夫なの?」

「あぁ、心配させて悪かったな」

「もし何か悩んでる事があるなら、私聞くよ?」

「いや、大丈夫だよ。自分で何とかしたい悩みだからさ」

相談というのは、意見やアドバイスはもらえるが、その後の決断は自分でしなくてはならない。
まぁ、当然と言えばそれまでだけど。

「そっか……よく分からないけど、大切な事なんだね」

そう言って、小さく微笑む優子。
我が妹ながらよくできた妹だよな……俺にはもったないくらいの。