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日常と変わりゆく日常5 ( No.124 )
日時: 2013/04/10 23:20
名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)

「はい。もしかして嫌ですか?」

「いや、嫌とかではないけど……」

さっきの執事さんとか家の中には居るけど、今一応部屋に2人きりな訳だし……。
なんつーか、三波ってちょっと天然なのかな?

「けど?」

「……いや、三波が無意識にそういう事やってるのは分かるけど、あんまそういう勘違いさせる事しない方が良いかもよ?」

まぁ、三波はそんな気サラサラないってのは分かってるけど。
もし三波の大ファンの田中なら、狂喜乱舞しそうなシチュエーションだな。

「勘違い……?」

よく分からないといった表情をする三波。

「だから、もしかしたら俺の事好きなんじゃないか?って勘違いするって事」

実際そんな事は、天地がひっくり返ってもないだろうけど。
自宅に呼ばれて、部屋に2人っきりだったら、少しはそう思っても不思議ではないはずだ。
そう考えながら、三波の隣りに座る。

「……勘違い……じゃないですよ?」

少し俯きながら、ポツリと呟くように三波が言った。

「へっ?」

「だから……勘違いじゃないです」

一瞬何の事を言われているのか分からなかったが、すぐに思考が追いつく。

「そ、それって……俺の事が好きって事?」

「……はい」

頬を真っ赤に染めて、小さく頷く三波。
これって……告白……だよな?でも冗談とかじゃないのか?
少し迷ったが、俺は後者だと判断した。

「……い、いやだな〜!!そんな冗談言って!!」

「冗談じゃないです!!」

俺の言葉をかき消すように、普段は大きな声を出さない三波が声を張り上げた。

「ご、ごめんなさい。……でも本当なんです」

「……えぇ!!……で、でもどうして俺なの?」

そこは疑問だった。
俺は取り立てて優れたところがあるわけでもないし、三波に好かれてるって感じもなかった。

「水島さんだからです……優しくて、人を安心させる力を持ってます……水島さん、初めて会った時の事覚えてますか?」

「えっ?あぁ、覚えてるよ」

三波と会ったのは、たい焼きを買いに商店街に行った帰り、女の子の悲鳴が聞こえて見てみたら、数人の男に絡まれてたんだっけ。
助けに行ったは良いけど、返り討ちにあって俺が病院に運ばれたという情けない話しだ。
その時に初めて、病室で三波に会ったんだよな〜。

「あの時、私本当に怖かったんです。でも、水島さんが助けてくれて……水島さんが病院で目を覚ましたら、自分の事より私の事を心配してくれてて……」

「……そりゃ、当然だろ?」

「それは、水島さんだからですよ」

何だか、三波の中で凄く美化されているような気がするんだが。
改めてそんな風に言われると、照れくさくなる。

「あの時から、水島さんの事が気になっていたんです。そして今は、1人の異性として好きです」

その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓が跳ね上がる。
先ほどのように、流れではなく面と向かって言われたのもあるのだろう。
どこか夢の世界の事だと捉えていたものが、現実なんだと理解した瞬間にドキドキがピークに達した。

「…………」

返事をしなくちゃいけない……しかし、頭が真っ白になってしまい言葉が出てこなかった。

「あ、あの……良かったらお付き合いをしたいと……思うのですが」

沈黙に耐えかねたのか、三波が言葉を続けた。

「……えーっと……その、俺……三波にそんな風に思われてたなんて思いもしなかったから、正直嬉しい」

「……じゃあ」

「……でも、俺ある人の事が気になってて、最近は寝ても覚めても考える事は、そいつの事ばっかりなんだ」

俺がそう言うと、三波は目に涙を溜めて、悲しみで顔が歪む。

「……それは、進藤さんの事ですか……?」

「……そうだよ」

この気持ちは、最近になってやっと分かった事だ。
俺は多分かおりの事が好きなのだろう。

三波は泣きながら俺の服の袖を引っ張って、消え入るような小さい声で呟く。

「……い……やです。私、水島さんのそばに居たい……んです」

「み、三波……?」

「私……初めて人を……好きになったのに……」

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、嗚咽まじりにそう言う三波。

「嫌ですよ……そんなの嫌です……」

そんな三波の悲しい表情を見て、胸がぎゅっと締め付けられた。
けれど今の俺には、三波の言葉をただ黙って聞いているくらいしかできなかった。