コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

日常と変わりゆく日常6 ( No.126 )
日時: 2013/04/11 22:41
名前: ゴマ猫 (ID: vysrM5Zy)

泣き疲れて眠ってしまった三波を、起こさないようにそっと部屋を出たところで、執事さんに会う。

「おや?水島様、もうお帰りですか?」

「えぇ」

「お嬢様は?」

「その事なんですが……」

俺はさっき起こった出来事を、執事さんに話した。

「そうでしたか……」

神妙な面持ちで、俺の話しを聞いて、深く頷く執事さん。

「……すいません」

「いえいえ、気になさらないで下さい。ここ最近のお嬢様はやけに楽しそうでしてな」

執事さんは、思い出を振り返るように話しだす。

「お嬢様のご両親は、お忙しい方で、お嬢様が幼い頃から仕事であちこちに飛び回っておりまして……そのせいか、お嬢様はとても寂しい思いをされていたのです」

そうだったのか。
何となく俺の家の環境と似てるな。
家は妹が居たから、それほど寂しいと思った事はなかったけど……それに母さんも夜は遅いけど、一応帰ってきてるし。
親父はまぁ……いつも居ないけどな。

「学校でも中々ご友人ができず、私や給仕達がよく話し相手になっておりました」

「えっ?三波……いや、風香さんってうちの学校で人気者ですよ?」

これだけ人気なのだから、友達が居ないなんてイメージできないな。

「お嬢様は、人の心がよく分かるのですよ。だから下心があって近付いてくる方は避けていたのでしょう」

なるほど……。
じゃあ、少なくとも俺やかおりや赤坂は信頼されてるって事か。

「水島様の話しはよく聞いておりまして、どうしたらもっと仲良くなれるか?と悩んでおられました」

「そうだったんですか……」

チクリチクリと、胸が痛む。

「水島様、お願いがあります。どうかこれからもお嬢様のご友人としてでも、そばに居てもらいたいのです」

執事さんはそう言って、深々と頭を下げた。

「……もちろんですよ。風香さんさえ嫌でなければ」

実際のところ、告白を断ってしまったのだから今まで通りというのは難しいかもしれない。
でも、1人の友人として三波が認めてくれるのならば、俺は友達でいたいと思う。

「ありがとうございます」

そう言うと、執事さんはもう一度深々と頭を下げた。

「ったく、時田さんは甘々ですねー。お嬢様をフってしまうそんな輩は、す巻きにして海に放り投げてもお釣りがくるですよ」

執事さんの後ろから、変な語尾を使うおさげ髪のメイドさんがやって来た。

「………」

あっけにとられて、呆然としていると執事さんが(執事さんはどうやら時田さんって名前らしい)そのメイドさんを叱る。

「こらっ!!夕月!!また、お前は余計な事を!!」

時田さんに怒られたメイドさん(夕月さんって言うみたいだ)は飄々とした表情でまったく気にしてなさそうだった。

「良いんですよー。それくらい言ったって罰は当たらねーですよ」

そう言うと、俺の所へつかつかと歩いてくる。
近距離まで近付くと、俺にだけ聞こえるように、そっと呟く。

「次、お嬢様を泣かしたらぶっ飛ばしですよ?」

「……は、はい」

俺は夕月さんのあまりの迫力に、素直に頷く事しかできなかった。
いや、泣かしたりするつもりはないけどさ。

「夕月!!いい加減にしないかっ!!」

時田さんに再び怒られると、夕月さんはクルッと逆方向に向き直る。

「さぁって、仕事仕事」

そう言い残すと、わざとらしくこの場から退散していった。

「まったく……夕月のやつは。水島様、失礼致しました」

「いえ、風香さんはみんなに大事に思われてるんですね」

俺がそう言うと、時田さんは笑顔で頷いた。
きっと、時田さんや夕月さんは三波の家族のような存在なんだろう。

「じゃあ、そろそろ本当に帰ります」

「またいつでもお越し下さい」

時田さんに見送られて、俺は三波家を後にした。