コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

決意の夜 ( No.131 )
日時: 2013/04/12 23:32
名前: ゴマ猫 (ID: 7ZYwzC8K)

三波の家から自宅へ帰る途中、なぜだか視線を感じて振り返る。

「………」

しかし、誰も居ない。
俺の気のせいだろうか?さっきから、誰かに見られてるような感じがする。

「……っと、それどころじゃない。また遅くなると優子に怒られちまう」

何となく気にはなったが、そのまま自宅へと帰るのだった。

家に着くと、優子がリビングの椅子に座って待っていた。

「……ただいま」

「お帰り、お兄ちゃん」

あれ?怒ってない?
いつもなら、夕飯前に連絡してって必ず言うのに。
自分の腕時計を見ると、20時を示していた。

「あの〜……優子さん?」

「ん?何?」

「今日は、何も言わないのか?」

「何もって?」

「いやホラ、遅いとか、早く連絡しろとか」

「えっ?だって、お兄ちゃん遅くなるって連絡あったよ?」

えっ?
そんな連絡した覚えがないんだが……。

「いや、そんな連絡してないぞ?」

「えーっとね、時田さん?って人から家に連絡あって、今日はお兄ちゃんが遅くなるからって」

あぁ……あの三波の家の執事さんか。
何て手回しがいい人なんだ。

「そうだったのか。えっと、じゃあ俺の晩飯は?」

「えっ?お兄ちゃん食べてきたんじゃないの?」

驚く優子。

「いや、食べてないんだ」

何か色々あって、それどころじゃなかったし。
もしかしたら時田さんは三波の家で、夕飯をご馳走してくれる予定だったんだろうか?

「困ったな〜……。今日はお兄ちゃん夕飯いらないって聞いたから、私も簡単な物で済ませちゃったんだ」

無いと分かると、余計に腹が減る。

「何かないのか?」

俺がそう言うと、優子は困ったような顔をする。

「ん〜、タイミング悪くちょうど何も無いんだよね。私がコンビニで何か買ってこようか?」

「いや、なら俺が行くよ」

わざわざ優子に買いに行かせるのは悪いし、夜は危ないしな。

俺は再び外に出ると、近所のコンビニに向かって歩き出した。
しばらく歩いていると、公園近くでまた視線を感じる。

「……またか」

三波の家から帰る途中にも感じた視線。
かなり気になるので、カマをかけるつもりで後ろに勢いよく振り返り、当てずっぽうに公園近くにある街路樹を指さして叫んでみた。

「隠れても無駄だっ!!そこに居るのは分かってる!!」

しかし反応はなかった。
もしかしてこれ、端から見たら俺ってすげー恥ずかしい奴なのでは……?

そんな事を考えていると、指さした街路樹の裏から人が出てきた。

「ど、どうして分かったの?……完璧な尾行だったのに」

街路樹の裏から出てきた人は、黒髪ロングの人見知り少女、木原日向だった。

「な、何でお前が?」

ツッコミポイントがありすぎるのと、驚きのあまりそれ以上の言葉が出てこない。
当の本人は、しれっとした表情で会話を続ける。

「さすがね。初めて会った時からただ者じゃないと思ってたわ」

「いやいや木原、もうツッコミどころが多すぎてどこからツッコミ入れたら良いのか分からねーよ!!とりあえず、ストーカーチックな事はやめてもらえるか?」

木原の場合はシャレにならん気がする。

「ずいぶんなご挨拶ね。せっかく良い情報を持ってきてあげたのに」

相変わらずの無表情で、表情の変化は乏しいが、俺の言葉に少し不満な様子だ。

「……良い情報?」

「えぇ、あなたが最近気になってる、進藤かおりの情報なんだけど……」

そのワードを聞いた途端、俺の心臓が跳ね上がり、木原に詰め寄っていた。

「かおりの情報って何だ?何かあったのか?」

俺の迫力におされたのか、木原が後ずさる。

「ち、ちょっと、落ち着きなさいな」

「あ、あぁ。悪い」

そう言って若干距離を取る。
一呼吸つくと、木原が話し始める。

「……進藤さん、どうやら明日授業が終わったらそのまま引っ越してしまうらしいわよ」

「えっ……?」

引っ越しまでは、まだ後何日かあるはずだ。
落ち着け……。
木原の情報が間違ってる可能性もある。

「その情報に信憑性はあるのか?」

「間違いないわね。職員室で話してるのを聞いたし、学校のパソコンをハッキングして確認もしたわ」

………。
この際、ハッキングの事にかんしては目をつぶっておこう。
そのおかげで、分かった事があるのだから。

「木原……1つ質問があるんだが?」

「何かしら?」

「お前とかおりって、接点ないよな?どうやって俺がかおりの事気になってるって知ったんだ?」

これは疑問に思っていた。
俺の知るかぎり、かおりと木原は接点がない。
また俺も木原にかおりの事が気になってるなんて事は言った事がない。

「ふん、だから鈍いって言われるのよ。そんなのあなたを見てれば、誰でも分かるわ」

木原は少しつまらなそうにそう言った。

「えっ?そんなに顔に出てるのか?」

「まぁ、私が最近あなたを見てたってのもあるのだけれど」

「見てたって?」

「そんなの色々よ。4人で遊園地に行く事とか、進藤さんと一緒に登校してるとことか」

待て、待て待て!!
登校してるとこは見られたとしても、遊園地に行った時は木原は居なかっただろ!!
なぜ知ってる?!

「……木原。何で遊園地に行った事知ってるんだ?」

「それは……その、屋上で4人で話してるのをたまたま聞いて……」

「………」

「か、勘違いしないで!!別に盗み聞きしてた訳じゃなくて……あなたが最近図書室……来ないから……気になって……その」

なるほど。
つまり木原は寂しかったのか。
人を避けてるくせに、変なとこで寂しがり屋だな。

「別に話しかけてくれれば良かったのに。今日だって変に尾行しなくても、話しかけてくれりゃさ」

「……嫌われてるかもって思ったら、話しかけづらかったのよ……」

いつも無表情で淡々と話す木原が、俯いて自信がなさそうに話す。

「はははっ」

「な、何がおかしいのよ?」

「いや、木原でもそんな事考えるんだなーって思ってさ。いつも人なんて関係ないって感じなのに」

「……それは……だからよ」

木原が何か呟くように言っていたが、声が小さくてよく聞こえなかった。

「ん?」

「とにかく、ちゃんと情報は伝えたから後は自分で何とかなさい」

「あぁ、ありがとう木原」

それだけ言い残すと、木原は帰っていった。
決戦は明日。
たとえ、かおりが遠くに離れてしまう事になっても、その前にちゃんと自分の気持ちを伝えよう。

そう、決意した夜だった。