コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 日々の小さな幸せの見つけ方 ( No.134 )
- 日時: 2013/04/15 21:40
- 名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)
かおりの転校当日の朝。
今日の授業が終わったら、かおりはそのまま引っ越してしまう。
俺はいつもより早起きをしていた。
「……よしっ」
制服に袖を通し、自分に気合いを入れる。
着替え終わってリビングにいくと、優子が朝食の準備をしていた。
「おはよう」
「あれ?お兄ちゃん今日はやけに早いね」
優子は、驚いた顔で俺を見つめてきた。
「あぁ、今日はちょっとな」
「ふ〜ん。お兄ちゃんが早く起きてくるなんて、今日は雪でも降るのかな?」
そう言って、優子は悪戯っぽく笑う。
「何だよそれ?俺はそんな寝坊助キャラじゃないぞ?」
いつも普通に間に合うように起きてるんだけどなぁ。
「私としては、早く起きてくれるのは嬉しいけどね〜。明日もその調子でね」
うっ……明日はこんな早く起きれる自信がない。
「努力するよ……」
そんなやり取りをしながら、なごやかな朝食の時間が過ぎていった。
その後、教室に着くなり、赤坂に話しかけられる。
「水島!!隣りのクラスの奴から聞いたんだけど、進藤さん今日で転校しちまうらしいぞ!!」
「あぁ、知ってるよ」
昨日の夜に木原から聞いていたしな。
実は今日、早く起きてかおりと話せたらと思い、かおりの家まで行ったんだが、すれ違いになったらしく会えなかった。
「知ってるって……そのわりに冷静だな」
そう言って赤坂は不思議そうな顔をする。
「冷静でもないよ」
心の中は不安でいっぱいだったりするからな。
「お、おい、もう授業始まるぞ?」
「すぐ戻ってくる」
かおりの様子が気になった俺は、授業が始まる寸前に教室を抜け出した。
かおりのクラス前に着くと、すでに担任が来ていて何かを話していた。
俺はこっそりと扉越しに聞き耳をたてる。
「よーし、授業始める前にちょっと報告があるぞ」
担任が、ざわつく教室の中に声をかける。
「今日で進藤が転校する事になった。急な話しではあるし、みんなも突然で驚いてるだろうが、明るく送り出してやってくれ」
簡潔な言葉で締めくくると、クラスのみんなが思い思いにかおりに話しかけているようだ。
中からは「転校しても仲良くしてね」とか様々な声が聞こえてきた。
中の音に集中していると、後頭部に衝撃が走った。
ボカッ!!
「あいたっ!!」
「なーにやっとるんだ?よそのクラス前で」
自分のクラスの担任、小山田先生にどつかれた。
「す、すいません……教室戻ります」
ペコッと頭を下げて、教室へ戻る。
教室へ戻り席につくと、赤坂が小声で話しかけてきた。
「進藤さんの様子どうだったんだ?」
さすが赤坂。
何も言わずとも俺の事を理解している。
「あぁ、なんかクラスの連中にいっぱい話しかけられてたみたいだ」
「うーん、進藤さんは男女問わず人気があるからな……下手したら帰りも話しかけられるかどうか……」
赤坂はやや神妙な面持ちでそんな事を言う。
ちなみに授業は進行中だが、赤坂とは席が近いため小声で話しができる。
「いや、さすがにそんな事はないだろ?」
「お前は分かってないな……進藤さんの人気を」
「いやいや、昼休みだってあるし」
しかし、そんな俺の考えは甘かった。
かおりの人気は凄いもので、昼休みは他のクラスからも人が押し寄せ、とてもじゃないが話す暇はなさそうだ。
あいつ周りに好かれてたんだなぁ。
嬉しいような、寂しいような。
「だから言ったろ?お前だけだよ。進藤さんの人気に気付いてないの」
赤坂は呆れ顔で言う。
「ぐ……」
このまま何も言えずにお別れなんてゴメンだ。
引っ越しを止めるのは無理だけど、せめて最後にちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
「水島さん」
急に後ろから声がかかる。
「おわっ!!」
振り返るとそこには、校内人気No1美少女、三波風香が居た。
「えっ……と、この間はすいませんでした!!」
ペコッと頭を下げる三波。
「な、何で?謝る事じゃないよ。むしろ俺の方こそ」
そう言いかけたところで、三波の人差し指が俺の口を塞ぐ。
「水島さん、それは言わないで下さい。それを言われると、私が悲しくなっちゃいますから」
「あ、あぁ」
きっと三波なりに気持ちの整理があったのだろう。
胸がチクチクと痛む。
「そんな顔しないで下さい。えっと……できればこれからも良いお友達でいさせて下さい」
三波は少しはにかんだ笑顔で言う。
「もちろんだよ」
断る理由はなかった。
三波とは大切な友人の1人として、これからも一緒に居たい。
「何?何があったんだ?」
赤坂は状況が理解できず、仲間外れ状態だった。
後で説明しとくとしよう。
「それにしても、凄い人だかりですね」
「三波もかおりに会いに来たのか?」
「えぇ。私も転校の話しは今日聞いたものですから……その前にお話ししたいと思いまして」
人だかりを見て少し俯く三波。
「でも、これではちょっと無理そうですね……」
「あぁ……」
「せっかくなので、3人でお昼にしませんか?」
「えっ、俺も?」
驚く赤坂。
「えぇ。大勢の方が楽しいですからね」
三波は、ニコッと周りに花が咲くような笑顔で頷いた。
食堂へ着くと、普段は学食ではなく弁当の三波が来たため、食堂がざわつきはじめる。
三波人気恐るべし……。
「おい、なんか俺達の周りだけ人が多くないか?」
赤坂が小声で話しかけてくる。
周りを見ると、男子達が憎しみと羨望の眼差しで、俺達を見つめていた。
「そりゃ、三波と昼飯なんてレアだもんな」
「ちょっと、侮ってたな」
目をパチパチさせて驚く赤坂。
さすがの赤坂もこれは予想外だったみたいだ。
周りの視線は痛かったが、気にしないフリをして食券を買い、各々の昼飯を持って席に着く。
「それで、水島さんどうするんですか?」
三波は席に着くなり、そう訊ねてきた。
「どうするって、そりゃ最後に話したいけど」
「そうではなくてですね、進藤さんに告白するんですか?」
「ゴホッ……!!ゴホ……!!」
唐突にそんな事を聞かれてむせてしまう。
「うん、それは俺も思ってた。見てて、いつになったら付き合うんだってヤキモキしてたからな」
大盛りのカレーを食べながら頷く赤坂。
「そりゃ……その」
今日はちゃんと自分の気持ちを伝えようって思ってるんだけど。
こう上手くいかないと、焦ってくるよな。
「なんだか妬けちゃうなぁ……」
三波はフッと寂しそうに呟く。
「えっ?」
「何でもありませんよ」
次の瞬間にはいつも通りの三波に戻っていた。
不思議な組み合わせの昼食が終わり、別れの時間は刻々と近付いていた。