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日々の小さな幸せの見つけ方【完】 ( No.135 )
日時: 2013/04/29 20:10
名前: ゴマ猫 (ID: Mx34GQYU)

放課後。
チャイムが鳴ると同時に、教室を飛び出した。
かおりのクラス前に着くと、最後の別れとばかりに人波が凄かった。
それをかきわけるようにして中に入っていく。

「かおり」

「……真一」

目を丸くして驚くかおり。
かおりの近くまで近づき、かおりの手を掴む。

「ちょっと来い」

そのまま教室を出て、あまり人が居ない空き教室まで歩いた。
少し強引かと思ったが、こうでもしなければ、かおりと話すチャンスはなさそうだった。

「ち、ちょっと、そんなに引っ張らないでよ」

空き教室の入り口でかおりがそんな事を言った。

「わ、悪い」

俺は、かおりを掴んでいた手を慌てて離す。

「……どうしたの?」

「どうしたのって、今日でかおりは最後じゃないか。話しがしたいって思ったんだけど、中々チャンスがなくて……」

「………」

2人の間に、長い沈黙が流れる。
それはほんの数秒の事だったが、まるで何時間もたっているようだった。

「私も真一とずっと話したかった。……でも今日で最後かもしれないって思ったら、話すのが怖くなってきちゃって……」

沈黙を破り、ポツリ、ポツリと話しだすかおり。

「そういえば、ちゃんとした場所言ってなかったよね?……私の引っ越し先はね、ここから港まで行って、そこから船で2時間くらい行った小さな島なんだ」

「えっ?」

そういえばそうだ。
遠くとは聞いていたけど、転校の事で頭がいっぱいで詳しい場所は聞いてなかった。

「もちろん会いに行こうと思えば行ける距離だよ?でも、今までみたいに気軽に毎日は会えない……そう考えたらなんだか怖くなったんだ」

確かにそうだ。
けして行けない距離ではない。
だが、今までのように毎日会える訳ではないのだ。
今さらながら、その事実が俺の胸に突き刺さる。

次の言葉が出てこない。
こんな時、何て言ったら良いのだろう?
ドラマの中なら、かっこいいセリフを言って、ハッピーエンドだろう……でも、現実は次の言葉が出てこない。
そんな空気を察したのか、かおりが言葉を続ける。

「……でも、仕方ないのかな?こうやって離ればなれになる事も……」

「そんな事……!!」

「ごめん。私、そろそろ行かなきゃ……」

そんな事ない。
そう言おうとしたところで、かおりと言葉が重なって俺の言葉が途切れた。

「ちょっと待て!!」

「……バイバイ。ずっと……ずっと好きだったよ真一……」

そう、一言だけ言うとかおりは俺から離れていく。
もしかして……俺、フラれたのか?
昨日の夜までは意気揚々と気持ちを伝えるんだっと意気込んでたが、こんなあっけなく終わるものだったのか?

夕暮れの教室から消えていく、かおりの後ろ姿を見ていた。
言葉も、身体もまるで石化したかのように動く事も、叫ぶ事もできなかった。

「………っ!!」

唇を強く噛みしめる。
情けない。
今日ほど自分をそう思った事はなかった。
本当は伝えたい事がもっとあったのに!!もっと……!!

不意に、後ろから聞き慣れた声がかかった。

「お、おい水島!!進藤さん行っちまうぞ!!」

「赤坂……か」

「何ボーっとしてんだ?!ちゃんと告白したのか?」

「いや、その前にフラれた……」

「フラれたぁ?」

俺は赤坂に、事の一部始終を話した。

「バ、バカヤロー!!それはそういう意味じゃなくて……あぁ!!もうとにかく早く追いかけろ!!もし、本当にフラれてたら愚痴聞いてやっから!!」

「だけど……」

「良いから!!自分の口で伝えてこい!!その後の事なんてそれから考えりゃ良いんだよ!!」

「赤坂……」

そうだ。
まだ俺は自分の言葉で、想いを伝えてない。
結果なんて、その後の事はそれから考えればいい。

「……ありがとな、赤坂」

小さくお礼を呟き、俺は教室を飛び出した。
全力で校舎を走り抜ける。

息はきれ、横っ腹が痛くなっていたがかまわず走る。
校庭に出た所でかおりの姿を見つける。
ちょうど校門の所に、かおりのお父さんが車で迎えにきていた。
多分、そのまま車で港まで行くつもりなのだろう。

「かおりっ!!」

息がきれて、あまり大きな声が出なかったが、全力で叫んだ。
しかし、かおりは俺の声に気付かなかったのか、そのまま車に乗りこむと車は無情にも発進してしまった。

「くそっ……」

いくらダッシュしても、人の足では車に追いつけない。
ここまでか?そう思った時、校門の方から聞き覚えのある声がかかった。

「水島さん!!」

声の主は三波だった。

「……三波?」

「こっちです!!早く乗って下さい!!」

目をやると、黒色の高級車が停まっていた。
俺は急いで三波のところへ行く。

「……これは一体?」

「説明は後です。今は早く乗って下さい」

三波に言われるまま乗りこむと、車は勢いよく発進した。

「三波、これは?」

「進藤さんを追いかけるんですよね?車じゃ追いつかないって思ったので」

「タイミング良すぎないか?」

「赤坂さんから電話もらいまして、時田さんに無理言って来てもらっちゃいました」

こんな何分かの間に来るなんて……どうやったんだろう?
でも凄いありがたい。
バックミラー越しに時田さんと目が合う。

「ハッハッハ。伊達に執事はしておりませんよ?水島様」

時田さんは快活に笑う。
俺は小さく頭を下げた。

やがて車は港に着いた。

「水島さん、早く行って下さい」

三波の声に背中を押され、車のドアを開けて、かおりの所へと走る。

「かおりっ!!」

「……真一?!」

かおりは驚きの表情で俺を見てきた。

「俺、どうしてもお前に伝えたい事があって……」

「伝えたい……事?」

「あぁ、……俺は、俺はかおりの事が好きだ!!……いつも一緒に居て、隣りでくだらない話しをしていたい。ずっと俺のそばに居てほしいんだ!!」

周りに乗船するための結構なギャラリーは居たが、気にせず俺の素直な気持ちをぶつけた。

「……真一の事、好きじゃないよ……」

「えっ……?」

その言葉を聞いた瞬間、絶望のどん底に落とされる。

「真一の事、好きじゃないよ!!……大好きだよ!!」

「……それって……」

「だから大好きだよ。言うの遅いぞ……ずっと待ってたんだから」

かおりは涙を流しながら、はにかんだ笑顔でそう言った。

「う、嘘じゃないよな?」

地獄の一丁目から生還したせいか、頭が混乱している。

「嘘言ってどうするの?本当に本当だよ」

その瞬間、俺は駆け出してかおりを抱きしめていた。

「わっ……!!し、真一……」

「……別に良いだろ……好きなんだから」

「……わ、私は良いんだけど……」

かおりが指差した方向を見ると、かおりのお父さんが般若の形相で睨んでいた。

「確か、水島君とか言ったね?君とはいずれゆっくり話さないといけないようだ」

「あ、あのこれは……その」

慌ててかおりから離れる。
しかし、怒りの炎は収まらず、お叱り受ける事になった。
俺が、かおりのお父さんに怒られている間に、かおりと三波は隣りで何かを話していたようだ。

なんとか解放されたところで出航時間がきてしまった。

「真一、ちゃんと会いに来てよね?」

「当たり前だろ。絶対行くから待ってろ」

そう言うと、かおりは嬉しそうに微笑んだ。

「そろそろ、行くね?」

「あぁ、気をつけてな」

せっかく恋人になれたのに、離れるのは正直寂しい。
でも必ず会いに行くからここはグッと我慢だ。

目を閉じてそんな事を考えていると、唇に柔らかな感覚が走った。
とっさに目を開けると、かおりの顔が間近にあった。

潮風にのって、かおりの髪の甘い匂いが鼻をくすぐる。
やがてお互いの距離が離れる。

「なっ……!!」

「えへへ……またね、真一」

そう言うと、かおりは笑顔で船へ乗りこんだ。

俺はポーッとしつつ、しばらくデッキから手を振るかおりを眺めていた。


「進藤さん、行っちゃいましたね?」

「うわっ!!」

ポーッとしていたため、三波が後ろに来ていた事に気付かなかった。

「顔、真っ赤ですよ?」

クスクスと、楽しそうに笑う三波。

「えっ?マジで?」

「冗談です。さっ、私達も帰りましょう」

「お、おう。そういやさっき、かおりと何話してたの?」

「水島さんがこっちで浮気しないように、見張っててくれって」

「そ、そんな事を?!」

初めからそんな心配されてるなんて、軽くショックなんだが。

「冗談で〜す。本当は秘密です」

「み、三波さん……人が悪いよ」

まだちょっぴり俺の騒がしい日々は続きそうだ。

幸せや平和は、日々の小さな日常の積み重ねで出来ている。
ちょっとした事でそのバランスが崩れると、失ってしまうかもしれない。
人は、失って初めてその大切さに気付くものだ。
だから俺はこの日々を大切にしよう。

みんなが居るこの日々を大切にしよう。