コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

病室にて ( No.28 )
日時: 2013/04/29 16:33
名前: ゴマ猫 (ID: Mx34GQYU)

重たい瞼が開くと白い天井、まるでデジャヴを見ているようだった。
誰かが俺の手を握っている。

「……かおり……か?」

俺の声を聞くとパッとその子は顔あげる。
女の子だ。
セミロングの綺麗な青みがかった黒髪、透き通る瞳、清楚や可憐と言う言葉がピッタリの美少女だった。

「……良かった……本当に良かった……」

女の子は半泣きで、ひどく心配な表情をしていた。

「えっと君は……?」

起き上がろうとするが、頭と顔がズキズキする。

「あっ、まだ起き上がっちゃダメですよ!!」

慌てて俺の肩を掴む女の子。

「私は、三波風香って言います。あなたに危ない所を助けていただいて……」

あぁ、あの時絡まれてた女の子か。
まぁ飛び出したは良いけど、ボコボコにやられたってのを助けたと言えるかは、正直微妙な所ではあるけどな。

「そっか……とにかく三波さんが無事で良かったよ」

これで助かりませんでした。だったら目も当てられない。

「良くないです……私のせいでボロボロじゃないですか」

三波の目からは、涙がこぼれ始めていた。
驚いた……見ず知らずの人に助けてもらって、申し訳ないって気持ちは分かるけど泣く事はない。
この三波さんって子優しい子なんだろうな。

「何かごめん」

「何で謝るんですか?私がいけないのに……」

三波はしゅんとしてしまう。

「いや、本当はもっと格好よく助けるつもりだったんだけど、逆に迷惑かけたっていうか」

「そんな事ありません!!あそこであなたが来てくれなければ、私どうなっていたか……だから最高に格好良いです!!」

静かな病室にこだます声、三波はハッとする。

「……その……だから」
何か恥ずかしいな……。
隣りから「若いね〜」とか「青春だね〜」とか聞こえてくる。

「コホン!ちょっと良いかね?」

気付くと白衣を着て、白髭をたくわえた医者が、気まずそうな顔で俺達を見ていた。

「すいません」

俺は軽く頭を下げる。

「水島さん、もう帰って大丈夫ですよ。軽い脳震盪と打撲だから、顔の腫れは2〜3日で引くよ」

簡潔に、そう告げると医者は去っていく。

「ところで今何時?」

「20時ですが?」

ヤバッまた何の連絡もしてない。
優子のやつ心配してるぞ!!

「ごめん三波さん!!俺急いで帰らなきゃならないんだ!!」

「では私が送りますよ」

「良いって、それより気をつけて帰れよ。ありがとな!!」

まだ少し頭と顔が、ズキズキするが仕方ない。
ダッシュで帰る。

よく聞こえなかったが、後ろから三波さんが小さく呟いていた。

「お礼を言うのは私の方なのに……変わった人。水島真一さん……か」


すっかり暗くなった道を歩いていく。
春の夜はまだ少し寒い、あの乱闘のせいで携帯がイカれてしまって、優子に連絡が出来ずにいた。
う〜ん色々ついてないな……たい焼きも落としたし。

「……ただいまー」

俺が玄関から声をかけると、リビングから足音が近付いてくる。

「お兄ちゃん、遅くなる時は言ってよ〜ご飯が……わわっ!!」

俺の顔見て驚いた表情をする。

「どうしたのその顔!?ケンカでもしたの?!」

駆け寄って俺の顔を触る。

「ん〜、まぁそんな所か。ちょっとモメちゃってな」

嘘はついてない。
ただ正直に言うとまたこいつは心配するからな。

「珍しいねお兄ちゃんがケンカなんて、病院は行ったの?」

「あぁ、大した事ないってよ」

頭と顔は、まだ痛むが多分平気だろう。

「あんまり無理しちゃダメだよ?」

「おう。分かってるよ」

まぁ今回はイレギュラーみたいなもんだし、あんな事はもうないだろう。
あっても困るけどな。