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とある日の妹との休日旅行【番外編】 ( No.66 )
日時: 2013/04/29 18:13
名前: ゴマ猫 (ID: Mx34GQYU)

「……さぁ、どうするの?」

優子の体に取り憑いた、正体不明の化け物が俺に選択を迫る。
何の選択かと言うと、優子の体から出てほしければ、優子にキスをしろっと言っているのだ。

ここで、この後の想像してみる。
選択肢1
優子にキスする。

気まずくなり、今後の兄妹ライフに支障が出る。そもそも、緊急とは言え兄妹でそんな事をするのは躊躇われる。

選択肢2
優子にキスしない。

正体不明の輩(取り憑いてて姿は見えないが、多分悪霊の類)が優子に取り憑いたまま、日常生活へ……。
お兄ちゃんと呼ぶ声がたまに、ドスのきいた声になる。

選択肢3
他の原因を探す。

一番良い選択肢だとも思えるが、目を離した隙に何が起こるか分からない。

だあぁ〜っ!!
どれ選んでも、俺に明るい未来が見えん!!

大体何でキスなんだ?
疑問を感じた俺は聞いてみる。

「1つ聞いて良いか?何でキスなんだ?」

「……私は人間になりたかったのよ……そして女として、幸せな恋もしてみたかった」

まてまて。
お前女だったのか!?
いや、姿は見えないからそうとは限らないが。

ってか、恋がしたい=キスってどうなのよ?
しかも相手は、縁もゆかりもない俺なのに。

「お前の理屈は全然分からん!!」

「……分かってもらえなくて結構よ。ちゃんとした肉体があるあなたには、元々理解出来ない事だもの」

「はっ?どういう意味だそりゃ?」

肉体が無いってのは、何となく理解出来るけど、じゃあコイツはずっとこの場所に居たんだろうか?

いや、もう何となくでも理解出来るって時点で、俺もどうかしてるよな。

1つ思い当たるとすれば……あの人形か。

「……あなたに分かりやすく伝えるなら、この子にキスすれば成仏出来るって事かしら」

うーん。
どうやら避けられない運命のようだな。
これ以上グダグダ迷って、手遅れになってしまうのだけは阻止しなくちゃいけないしな。

「……よし、約束は必ず守れよ」

俺は距離を取っていた優子に、ゆっくりと近付いて、両手で優子の頬に触れ、顔を軽く上に向けさせる。

「……っ」

変な意識するな!!
海で溺れた妹を、人工呼吸するようなもんなんだ。

優子の黒い綺麗な髪を、両手でかきあげて、ゆっくりと、触れるようなキスをした。

その瞬間、どこからともなく、優しい風が吹き付け優子はガックリと俺に倒れかかった。

その後、俺も疲れてしまったせいなのか、優子を布団に寝かせた後は、いつの間にか眠りに落ちてしまったみたいだ。


翌朝、心配のせいか早起きをして優子が目覚めるのを待っていた。

「お、お兄ちゃん!!」

「大丈夫か?優子?」

「……あれ?私、どうしてここに?」

どうやら、優子には取り憑かれてた時の記憶はないようだ。
ん〜ちょっと安心。
内心覚えてたら、どうしようとヒヤヒヤしてたところだ。

「そうだ!!あの人形は?」

「人形?何言ってんだ?悪い夢でも見たのか?」

「夢?……」

「何だかよく分からんが、俺が戻ったら優子が居なくて、心配になって部屋に戻ろうとしたら、途中で倒れてたんだよ」

そういう事にしておく。真実は、知らない方が良い時もあるからな。

「そうだったんだ……うぅ……お兄ちゃん!!」

ガバッと俺に抱きついてくる優子。

「な、何だ?どうした?」

昨日の今日だからか、あんまりくっつかれると、心拍数がハンパなく上がってしまうんだが。

「うぅ……生きてて良かったよ〜」

「はっ?いつ死にそうなったんだよ?」

「夢の中でだよぉ〜!!」

「い、意味が分からんのだが……」

泣きじゃくる優子の背中をさすりながら宥める。
後で聞いた話しだが、あの人形は昔、悲恋の末に結ばれる事のなかった自分自身を悔いて、その想いが人形に乗り移ったのだとか。
それから人形となり、いつかは人間として成仏したいと思ってたのかもしれない。

呪いを解く方法が、キスなんてメルヘンな気もしたが、なぜ相手が俺だったのかは謎のままだった。
ってか、もうこういうのは勘弁してと心の底から願った俺なのだった。


こうして、波乱の妹との休日旅行は終了した。
この事がきっかけで、優子は1人で寝るのが怖くなり、数日間俺の部屋で寝てたのは、また別の話しである。