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それぞれの1日(三波編) ( No.70 )
日時: 2013/04/29 18:27
名前: ゴマ猫 (ID: Mx34GQYU)

窓から見える景色。
それはいつもと違っていた。

「お嬢様、どうかされましたか?」

白髪で初老の男性が、話しかけてくる。
この人は時田三郎さん。
この家の執事を任されている人だ。
私が小さい時から、この家に一緒に居る、数少ない1人でもある。

「ちょっと考え事をしていました」

「最近は、考え事をされている事が多いですな」

「えぇ。でも最近は楽しいんです」

「以前おっしゃってた、ご友人の事ですな?」

「本当はもっと仲良くなりたいのですが……私がその方と仲良くすると、傷付いてしまう方が居るんです」

進藤さんのあの時の表情、すごく悲しい顔をしてた。

「お嬢様……何とお優しい」

時田さんがハンカチで涙を拭っていると、後ろからおさげ髪のメイドさんが私の所へやって来る。

「いやぁ〜、ぶっちゃけそんな奴の事、気にする必要ねーですよ」

この変な話し方をするのは夕月麻子さん。
時田さんと一緒に、私が小さい頃からこの家に居る1人だ。

「恋愛にルールなんてねーですよ。弱肉強食ですよ、早い者勝ちな訳ですよ」

「恋愛って……私はその」

確かに好意はあるのだけれど。

「こらっ夕月!!貴様、お嬢様に何て口の聞き方だ!!」

時田さんが、夕月さんを怒る。

「あ〜、時田のおっさんはちょっと黙ってて下さい。大正浪漫じゃ今の子は落ちねーですよ」

「誰が大正浪漫だっ!!夕月それ以上言ったら、今週の仕事カットだぞ」

「さぁって仕事、仕事。忙しいなぁ〜」

わざとらしく部屋を出て行く夕月さん。

「まったく、夕月のやつは……」

私はこんなやり取りが好きだ。

私の両親は仕事でいつも居なかった。
1人っ子だった私は、小さい頃凄く寂しくて、よく時田さんや夕月さんにワガママを言っていた。
でもそのたびに、私のワガママに付き合ってくれた私の家族のような存在。

「お嬢様。私がおっしゃるのは恐れ多いですが、人と仲良くなるというのは傷付け合う事かもしれません。傷付けないで仲良くなるのにこした事はありませんが、本当の意味での友人というのは皆そのように傷付き、迷い、そして答えを出し育むものだと私は思います。」

「そう……ですね」

確かに時田さんの言うとおりかもしれない。
私がもっと仲良くなりたいと思うなら、逃げずに向き合う事が大切なのかもしれない。
よし、もう少し頑張ってみよう。