コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

暗雲4 ( No.96 )
日時: 2013/04/29 19:14
名前: ゴマ猫 (ID: Mx34GQYU)

ゆっくりと宙に上がったボールは、弧を描いて、リングに向かって落ちてくる。

ガンッ!!

リングの奥に当たって、勢いが弱まり、ボールがリングのまわりをクルクルと回る。


「「外れろー!!」」

俺と赤坂が、口を合わせて叫ぶ。
回転スピードが弱まってきて、後はリングに入るか、落ちるか。



ボールは、後ほんの数センチというところで落ちた。

「「ほっ……」」

俺と赤坂は、同時に安堵の溜め息をもらす。

「ちっ、外れたか」

田中は少し悔しそうにしていたが、すぐに横柄な態度に戻る。

「しかし、お前に後がないのに変わりはない」

2本先取している田中、3本目を外せば俺の負け。
確かに、ピンチな状況は変わっていない。

「おい、体調大丈夫か?」

赤坂が俺に耳打ちするように問いかける。

「……正直、あんま良くないな」

意地で痛みを我慢しているが、本当ならトイレに直行したい。
その時、体育館入口から穏和な顔立ちの、山本君が入ってきた。

「部長、首尾はどうですか?」

山本君は、にこやかな顔で田中に話しかける。

「もう終わるよ。水島は腹痛で、調子が出ないようだしな」

「それは何より」

ん……?
何で山本君、田中の事、部長なんて呼んでるんだ?

「山本君、何で田中の事部長って呼んでるの?」

まっ先に浮かんだ疑問を問いかける。
山本君は、にこやかな表情のまま俺に向き直った。

「水島君、体調は大丈夫かい?下剤かなりの量だったんだけどね」

俺の質問には答えず、ニコニコと笑いながら、爆弾発言をする山本君。

「えっ?下剤?」

「うん。スポーツドリンク飲んだでしょ?」

そう言うと山本君は、右手に錠剤が入った小瓶を見せてきた。

「……ま、まさか」

「うん。水島君は人が良いから、疑う事を知らないんだね」

極悪っ!!
なんつー卑怯なやり口だ。

「はっはっは!!水島、勝負の前から、すでに戦いは始まってるんだよ」

嘲笑うかのように、田中はそんな事を言う。

「汚ねぇーぞ!!お前らっ!!」

俺が怒るより先に、赤坂が田中に掴みかかる。

「ふん、ずるい、卑怯は敗者の戯言だと昔から言うだろう?」

「お前って奴は……!!」

田中の一言に、赤坂は完全に頭にきていた。
俺も頭にきていたが、理由が分かったせいか、さらに腹痛が酷くなってきてしまって動けずにいた。

「こんな勝負、無効だ!!」

赤坂がそう言うと、田中はすかさず反論する。

「ふん、俺は勝負は正々堂々やっていたぞ?それに、下剤を入れろ等と指示は出していない」

「そんな事、いくらだって言い訳できるだろ!!」
赤坂と田中の間に、山本君が割って入る。

「赤坂君、下剤を入れたのは僕だ。部長から指示もされていない。勝負は正々堂々と行われていた……これでは不服かい?」

にこやかな表情は崩さず、そう山本君は赤坂に言う。

「当たり前だろ!!」

「水島君はどう思う?」

不意に俺に問いかける山本君。

「……すっげー腹立つけど、ここで俺が勝てば問題ない訳だろ?」

どっちにしろ、俺が勝てば問題ない。
んで勝ったら、俺の気が済むまで謝ってもらう。

「うん、さすが水島君だ。そういう男らしいとこ僕は好きだよ」

ぐっ……。
男に好かれても嬉しくねーよ。

一悶着はあったが、結局2対1のまま、俺の3投目が行われる事になった。
赤坂は終始不満を訴えていたが、当事者の俺が納得したと言う事で、何とか納得してくれた。

「水島、ぜってー入れろよ!!あのムカつくコンビに謝らせてやろうぜ!!」

「あぁ」

赤坂の激励を背中に受け、俺は3投目を放った。
高く上がったボールは、キレイな弧を描き、リングに吸い込まれる。

「……なっ!!」

驚きの声をあげる田中。
2対2、後1本で決着がつく。

「……ふん、少しはやるな」

これで田中は動揺したのか、延長戦の1本目を外す。

「な、なんだと!!」

気落ちする田中。
ここで俺が決めれば決着がつく。
全ての思いを込めて、俺は4投目を放った。




ボールは今までで一番高く、キレイに弧を描いてリングに吸い込まれていった。

「や、やったぁ〜!!やったな水島!!」

赤坂が勢いよく俺に駆け寄り、背中をバンバンと叩く。

「……あ、赤坂……!!俺に刺激を与えるな!!……まじでヤバい」

「おおっと……悪い。早くトイレ行ってこい」

その後、俺は超特急でトイレに駆け込み、何とか難を逃れる事が出来た。
結局昼休みは終わってしまったので、放課後に俺と、赤坂と、田中、山本君で校舎裏に集まる事になった。



そして放課後。

「水島君……本当にごめん!!」

そう言うと山本君は、深々と俺に頭を下げた。

「あぁ、謝ってくれればもう良いよ。だけど今後はこういう事しないでくれよ?」

下剤入りスポーツドリンクなんて……スポーツドリンクがトラウマになりそうだ。

「……うん、本当にごめん。水島君の三波さんへの愛は本気だったんだね。僕は疑ってしまって恥ずかしいよ」

俯きながら山本君はそんな事言う。
ん?これって、愛とか証明するために勝負やったんだっけ?

「……あ、いやそれは……」

「ほら、部長も謝って!!」

「っ……その……悪かったな」

顔を背けながら、バツが悪そうに謝る田中。

「水島の本気は伝わった。しゃくだが、応援してやる」

謝ってるのに、横柄な態度は相変わらずだった。
ってか何か変な方向に話しが進んでるような。

「いや、ちょっと……」

「じゃあ、僕達は帰るから!!水島君、応援してるよ」

「ふん、じゃあな」

そう言って、2人はダッシュで帰っていった。

「なぁ、赤坂?」

「何だ?」

「話しが変な方向に行ってないか?」

「……まぁ、一連の事件は解決したんだし、良かったんじゃないか?」

「……そうだな」

その後、聞いた話しだが、田中と山本君は、三波のファンクラブなる部活をやっていて、田中はその部活の部長をやっているらしい。
何だか俺が、三波に想いをよせているという誤解をされてしまっていた。

ファンクラブ入会を勧められたが、全力で拒否したのはまた別の話しだ。