コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

零話 雨月高校オカルト対策研究部 ( No.13 )
日時: 2013/03/09 22:58
名前: 水岡月緒 (ID: joK8LdJj)

私立雨月高校、通称雨高。「うげつ」ではなく「あまつき」と読む。
万が一間違えたら最後、理事長に末代まで祟られるともっぱらの噂らしい。ここの理事長は狐か蛇か。だいたい「雨月」なんて百人中九十八人があまつきとは読まないだろう名前を間違えたら祟られるとは、事実だったら治安維持法も裸足で逃げ出す横暴っぷりだ。
しかし悲しきかな、この学校にはそんなスフィンクスの謎かけよろしくの学校名以上のインパクトと不可解を与える、謎の同好会が存在する。

『夕鶴へ 幸村君連れてオカルト対策研究部室まで来て』

タイトルも味もそっけもない、入学式とSHLを終えてさあ帰るか、とだらけきっていた私のケータイに届いたメールという名の不意打ち。送信者名が私の年子の兄、春凪秋雨であるだけで全身を嫌な汗が滑ったが、妙なところで気の利かない兄は不覚にも二度見では済まず三度身する羽目になるような単語を投下していた。

「……オカルト対策研究部……?」

脳裏にクエスチョンマークが大量発生したが、残念ながら私の脳内は草むらでもなければモンスターボールも存在しない。仕方ないので部活紹介のパンフレットに疑問は全部捕獲してもらおうと、鞄から薄っぺらいファンキーな表紙の本を引っ張り出し、オカルト対策研究部を探す。

『オカルト対策研究部
 ・部員:一名(二年四組 春凪秋雨)
 ・顧問:不在
 ・部室:六階図書準備室
 ・活動内容:回答拒否』

うん、意味不明。

部員数と顧問不在については、雨高では最低一人の部員と部室の確保さえ出来れば同好会として認定されるらしいのでスルー。雨高は私立の割に制服の着こなしや髪の色がかなり自由だったり、ケータイの持ち込みがOKだったりと校則が緩く、部活動も例に漏れずかなりフリーダムだ。

問題は言わずもがな、活動内容の欄だろう。
なんなんだ回答拒否って。それは回答出来ない程怪しい活動してますと大々的に宣伝しているに等しいんじゃないだろうか。そのせいで私の「オカルト研究部のタイプミスだろ」という、カンダタも縋り付くのを躊躇うであろう蜘蛛の糸以下の希望はあっさり絶たれたよ畜生。部員一名にも納得だ。
少なくとも私はこんな部活、万札何枚積まれたって行きたくない。
触らぬ神になんとやら、火薬庫に火を持ち込む馬鹿はいないのと同じだ。

「夕鶴、ここ」

今現在、私はその火薬庫にファイヤーダンスしながら突入するに等しいパーティー引き連れて到着してしまったが。

まあ、パーティーといっても私と、なにゆえか秋雨直々に連れて来いとお達しのきた幼馴染、桜崎幸村のみ。
私と同じく新入生である幸村、当然校舎に入ったのも数える程しかない筈だし、何より図書準備室は最上階である六階の一番端だ。歴史はかなり長いが、二年前に改装されたばかりの校舎はかなり綺麗で広い。しかし倉庫ばかりの六階はほぼ放置されたのか、この部屋も戸やプレートがボロボロで表示も読めないし足を運ぶ事も滅多にない。
だというのに、幸村は迷う事なく二階の私達のクラスからここまで来た。最早連れてこいと言われた私が連れてこられる側だが、機械音痴で不器用な幸村はケータイすら持ってないので、幸村への伝達は全て私を通す羽目になる。

「……秋雨」

幸村は煤けた戸を引き、それだけ言いながらつかつかと行ってしまった。一人ぽつねんと棒立ちになる私。

さてどうしたものか。ぶっちゃけると、いやぶっちゃけなくても入りたくはない。
しかしながら秋雨がメールまでして呼びつけた以上、引き返すというコマンドは最初から存在しない。作戦が『ガンガンいこうぜ』以外選択不可能な私に出来る最後の足掻きは、復活の呪文をメモするための筆記用具の用意だけだという事は、十五年プラスアルファの間に学習しているのだ。

「秋雨ー、入るよ?」

流石に相手が兄でも無言はどうかと思い、決死の覚悟で中に入ると。

「変態てめっ、それ俺のホットケーキだろ返せ死ね!」
「いくら僕でも君が口つけたような汚らわしい物体に手つける程落ちぶれてないよ、被害妄想も甚だしい死ね」
「うるせえ黙れくたばれ!つーかてめえ甘いもん嫌いだろ!」
「甘い物より辛い物が好きってだけで、別に嫌いとは言ってないよ?ああそうか、君の脳味噌はその程度の物事も判断出来ない単細胞生物以下のスペックだって事忘れたよごめんね?」
「……あ……り……もうそのへ」
「「黙れ死体は死体らしく大人しく死んでろ/!!」」
「いや……ま……生きて……」

……ここどこだっけ。
どこもへったくれも図書準備室兼オカルト対策研究部室なのだろうが、私の知ってる図書準備室は、本棚に交じってガラステーブルやソファーがあったり、裾の短い着物着た猫耳装備のどう見ても小学生な俺っ子がいたり、その猫耳少女が実の兄と言葉のバトルロワイヤル繰り広げたり、数秒前まで立って喋っていた幼馴染が床にボロ雑巾の如く倒れたりしない筈だ。

「お、誰だお前?」
「……え?は、春凪夕鶴……だけど」

こちらに気付いた猫耳少女が近寄ってくるが、残念ながら子供を相手取るスキルなど持ち合わせていない。先程のバトロワの件もあり警戒が解けず、とりあえず新製品に目がない親友から貰ったクッキーで牽制してみる事に。

「よかったら「食うっっっっっ!!!!!」

食べる、とまで言わせてくれてもよくないか。
クッキーを半場強奪した猫耳少女はテーブルに座り、俺はりん、と言った。

「お前が、変態の妹?」
「……変態って、秋雨?」

猫耳少女、もといりんは頷き、秋雨が「誰が変態だ」と呟く。
りんは秋雨をガン無視しつつ、思ってたよりいい奴だな!と目を輝かせた。
クッキー一枚でいい奴とは随分安い信頼だな、詐欺気を付けなよとは流石に言えなった。初対面だし。
唖然としてるうちに死体と化した幸村が蘇生してたので、便乗してソファーの端を借りる。座ると分かるが、妙に新しい物だった。どっから持ってきたんだろう。

「……何の用」

声音といいりんと秋雨から距離をとってる様子といい、幸村は物理的なバトロワにでも巻き込まれたのだろうか。
相変わらずいい笑顔の秋雨は、幸村の恨みのこもったれいとうビームばりの目線に全く怯まず足を組み替えながら、

「まあまあ、ちょっと長い話だからまずは落ち着こうよ。あ、ホットケーキ食べる?」
「だ・か・ら、それは俺のだ変態死ね!」

……誰か帰還の指輪ください。