コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

壱話 雨月高校七不思議其之参・髪切り ( No.31 )
日時: 2013/03/30 04:14
名前: 水岡月緒 (ID: joK8LdJj)

三階、理科室前の廊下。
紫ババア騒動後清水が離脱し、また元の四人組で校内を練り歩いていると、肩に寒気が走った。
窓でも開いてるのかと思ったけど、そんな事も一切なく。はて。

「……!夕鶴、髪」
「……え、髪の毛?……あ」

肩を指差す幸村につられ、基本横ポニにしている髪を摘み上げた時、毛先がばっさり無くなってる事に気づく。

「おーい、これじゃね?夕鶴の髪」

そう言ったりんの足元には、五センチはある、おそらく私の髪の毛。
しかしいつの間に。そして犯人は誰だ。

「多分、髪切りの仕業だね。今出るとは思わなかったけど」
「髪切り……?」

そのまんまな名前だけど、詳しい事は不明な為結局七不思議特集を読む。

『髪切り
 どこからともなく現れ、人が気付かないうちにその人の髪を切る妖怪。
 雨校では校舎改装後に被害が出るようになり、現在まで男女合わせて六人被害に遭っている。
 出現場所がランダムであり、対策等も不明。』

「学校建ってから大人しくしてたんだけどなー、あいつ」

りんが呟く。

「何、また昔から住み着いてたパターン?」
「あー、そう言えばかれこれ元禄からの付き合いか」
「最低でも三百年以上経ってる……!?」

予想以上に縁深かった。
別段命の危険はなさそうなのでそこは一安心だけど、よく考えればはた迷惑この上ない妖怪だな。

「確か髪切り虫っていう虫みたいな姿してるのと、狐の仕業だって説があるよ、ね幸村君」
「俺を見るな」
「ごめんごめんつい。……そう言えば、人と妖が結ばれる時によく現れるらしいね。朝霧さんと父さんの式の前にも出たって、朝霧さん言ってたな」
「……朝霧さんって」

確か、秋雨のお母さんの名前……の筈。
如何せん、顔を合わせた事もほとんど無い為にはっきりしないんだよなあ。

「狐の方だったらしくて、首締め上げて飲み込んだ髪全部吐かせてやったって言ってたよ。後只事じゃない色した泡も」

時々言葉の端から、遺伝子の恐ろしさと血の繋がりは汲み取れるけど。

「目撃情報ちょっとあるけど、それによると髪切り虫の仕業っぽいんだよね……それより、夕鶴は何も感じなかった?妖気とか」
「いや、残念ながら別段」
「俺も……」
「夕鶴も幸の字もダメかよ。じゃあ変態は絶対無理だろ……おいどーすんだ」
「髪と間違えて首切られろ馬鹿猫」

駄目だこいつら早くなんとかしないと。
罵詈雑言がインフレ起こしてほぼ挨拶と昇華してる二人はどうにもならなさそうなので、はてどうしたものかと一人思い悩む。
しかしながら、元々霊感があっても知識には乏しい私だ、何かいい案が思いつく筈もなく。溜息がつい零れた時、違和感のある銀髪が目についた。

「ちょ……幸村!髪の毛!」
「え……あ、本当」

まさかの被害者第二号が。三センチは持っていかれたであろう、すっぱり切れた幸村の毛先に視線が集まる。足元にばっちり髪が落ちてるし間違いないだろう。

「あーーーっ!?幸の字もかよ!」
「被害者が増えたね。……でも、連続で襲ってくるって事は、この辺りから動く気はないのかな?」

それなら、と呟いて、秋雨が窓の方へ。何をする気だ一体。

「ちょっとごめんね」
「「……えっ……!?」」

瞬間、襟首を引っ掴まれた私と幸村。本当に何がしたいんだ。
常々、一見細身の部類に入るくせにどこにそんな力がと思う腕力で窓まで引きずられた時、秋雨が全部閉じられてた窓をひとつ開けた。
私達がついていけず棒立ちになっている真後ろの窓、そこに向かって。
さっき感じた、多分髪切りが原因の寒気が吹き込んだ瞬間、

「う、げっ!?」
「わっ……!?」

はたまた思い切り引っ張られた。
しかも無言。地味に痛いんだけど。
私達が重力に逆らわず前のめりに倒れこんだのに合わせ、窓のさんの上を滑らせるような勢いで秋雨が窓を閉めた。
横目で、鋏みたいな刃が見えた後。

凄まじい絶叫が窓を震わせた。

「……ギロチンとか、相変わらずえげつねーな変態」
「それなりにいい策だと思うけど?」
「俺達は囮か」
「まあ、こうして捕獲出来たんだし結果オーライで」

窓と窓枠にサンドイッチされてる、剃刀みたいな嘴に鋏に似た手の虫、これが髪切りらしい。
全く妖気も感じさせずに接近してきた割にはあっさり捕まったものだ。走り出したら前しか見ない猪みたいなものなのか。
とりあえず窓を開けて胴体を引き摺り下ろし、意識が戻るのを待つこと数分。

「……いや、何か建て替えられてから自分みたいなのが増えて、妖気にあてられてつい」
「理由になってないよカマキリもどきが」
「……俺と、夕鶴の髪……」
「夕鶴ー、どうすんだこいつ?」

微妙に生えてた足を正座させ、全員で説教をかます。

「私に振らないでよ」
「じゃあ、剃刀と鋏剥いで大自然に返す?」
「大自然から生まれたとは限らないでしょ秋雨。しかも生き抜く術剥奪してるし」
「そこらの鳥とかの生きる糧に」
「幸村、何で殺す事前提?ちょっと遠回しに言っても誤魔化されないからね」
「床屋がわりにしようぜ!」
「散髪代浮くけど嫌だよ」

結局まとまらないので、しばらく虫かごにでも叩き込んで図書準備室送りになった。
最後まで扱いは虫ですか。

「……ところで、君何で夕鶴と幸村君だけ狙ってたわけ?」
「いやそちらさんが言ってたでしょ、人と妖が結ばれると出る、って」
「まだ時間はかかりそうだけど、それでも釣られる程度には進展してるって事でいいのかな」
「……分かっててやってますよね」

……秋雨が髪切りイン虫かごに話しかけている。まだ話す事なんてあったのか。
しかし、今日は帰りに床屋に寄る羽目になっちゃったな。